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『ダンスパーティ』

瀬名さまからいただいたネタで、パーティのお話。
ベストED後、という設定です。

「これだけ甘くなる要素を詰め込めれば、甘くなるから大丈夫!」と瀬名さまに太鼓判を押していただいたのですが……

……これ、甘いですか!? 大丈夫ですか!? なんかすんません!!

という感じながら、一応、投稿。






*****





『ダンスパーティ』


 ハンスの目は、たしかに、釘付けになっていた。
 淡いクリーム色のドレスを揺らして、短い髪を高い位置で結い上げ、数々の宝石に彩られた少女──少女の瞳は、宝石のそれに負けないぐらいにきらきらと輝き、化粧を施しているであろう頬には、おそらく興奮のために朱がさしている。
 好奇心を露わにあちらこちらへ視線をさまよわせ、料理や装飾の類に歓喜している様子が手に取るようにわかる。体躯も表情も、仕草一つも、少女然としているようでありながら、二十歳という年齢にふさわしいしなやかさも供えていた。それら二つが同居した姿は、刹那的であるが故にひどく魅力的だ。あるいは、それこそが彼女の魅力そのものなのかもしれない。

 そして、そう思っているのは、恐らく自分だけではないだろう──ハンスはちらりと周囲に目をやった。
 出席者の目が、特にパーティ慣れしている上流階級の青年たちのそれが、少女を見ていた。淑女であれなどという教育をされたことがないであろう彼女──されていたとしても、それを守るタイプではない──は、王宮主催のパーティ会場では、いささか浮いていた。異彩を放っている、といっても良い。
 軽やかに動き、自由に表情を変える、奔放な少女。それだけならば、場違いだと疎まれることもあっただろうが、外見の美しさのみならず、彼女の肩書きが、見るものの目を変えていた。
 セラ島の「救世主」、アニー・アイレンベルク。
 あわや開発中止という危機を救いながらも、数々の報奨を辞退、アトリエだけを望んだという、「奇跡の少女」。
 以降、彼女は、この件を知るものたちの間で、噂のまととなっていた。

「あれか、君が担当していたっていう、錬金術師。噂どおり、かわいいじゃないか。以前見かけたときには、もっと子どもっぽかったと思ったが」
 ごく近い距離で声をかけられ、ハンスは急速に現実に引き戻された。
 慌てて咳払いをする。あれ、といういい方が気に入らないながらも、隣に目をやった。
 ハンスは職業柄、こういったきらびやかな場に出ることも多い。自然と、顔見知りも増える。話しかけてきたのは、自らの手であらゆる商売を成功させている、若き豪商だった。いまのハンスほどの年齢にはすでに巨万の富を築いていたという彼は、オルドールではなかなかの有名人だ。
「噂、になっているんですか。かわいい、と?」
 それは聞き捨てならない。青年は肩をすくめる。
「まあな。坊ちゃんたちのヒマつぶしだろうと思っていたが──なるほどね、たしかに、かわいい。何も知らなそうな感じが、保護欲っていうのかな、そそられる。教えてあげたくなるね、色々と」
 彼はおもしろがっているようだった。どこまで本気かわからない。ただ、ハンスをからかおうという意志だけははっきりと感じられ、ハンスは眉根を寄せる。
 なぜこうも筒抜けなのか。彼自身は、想いをひた隠しにしているつもりなのだ。
「いいのか、エスコートしなくても」
 ハンスの肩に手を乗せ、囁いてくる。ハンスは失礼でない程度に、丁重に手をどけた。
「いいんですよ」
 本当は、いいも悪いもなかった。できることならすぐに駆け寄って、隣にいたい。好奇の目を遮って、こんなところから抜け出してしまいたい。
 しかし、ハンスには、それができなかった。
 できる立場にないのだ。
 セラ島の今後の発展を願う、王宮主催のダンスパーティ──本土から客人を招き、他国の要人すら出席するこの大パーティの招待状が、アニーの元にも届いたのだと知ったとき、すぐにでも共に行こうと誘うつもりだった。
 しかし、意を決して、話題を持ち出したときには、すでに先を越された後だった。
 どこぞの貴族の息子とやらに、誘われたのだという。
 ハンスも行くんだねー、と脳天気にいわれたあの衝撃と悔しさを、ハンスはきっと一生忘れないだろう。

 視線の先では、アニーが幸せそうに料理に手を伸ばしている。やがて銀色の髪の青年が近づき、アニーの手を取った。言葉を交わし、その場から離れる。行き着いた先は給仕の元で、グラスを手渡されている。
 ハンスの脳に、さまざまな可能性がめぐった。
 あれは酒だろうか──だとしたら、アルコールに慣れていない彼女には危険だ。あの男の狙いはなんなのだろう。ただの暇つぶしだとして……ではいったいどうやって暇をつぶすつもりなのか。
 そもそも、アニーをどうするつもりなのか。
 どういうつもりで、彼女を誘ったのだろうか。
「……すごい顔だな。我慢してないで、行ってこいよ。後のフォローなら、いくらでも請け負ってやるから」
 それが親切心だということはわかったが、それでもハンスは動けなかった。
 動くだけの理由を、手にしていなかったのだ。

 ──もしかしたら、彼女はそれを望んでいないのではないだろうか──?


 
   *



 よく来たね、と両手を広げて迎えてくれるパーティ会場。
 わたしを食べて、とめかし込んでいる料理たち。
「すごい……!」
 アニーは心から感動していた。
 まるで、玉の輿に乗ったかのようだ。
 自分には縁のなかった世界に、自分ではないみたいに着飾って、立っている。
 まだパーティは始まったばかり。身分の高そうな面々は挨拶や世間話に忙しそうだったが、アニーにはあまり関係のない話だった。
 時折、もの珍しそうに声をかけられれば、それに応えるだけ。
 ただ、気にかかることもあった。
 この日のために練習した、ダンス。ちゃんと踊ることができるだろうか。
 そして、自分を誘った張本人の、青年。

「さっそく注目されていますね、アニー?」
 銀色の髪がまぶしいその青年は、人当たりのよい笑顔でそう話しかけてきた。
「え、あたし、なにか変ですか?」
 この距離の近さはなんだろう──上流階級の礼儀?
 そんなことを思いながら身を引いて、尋ねる。青年は苦笑した。
「いや、とてもかわいいですよ」
「あはは、いいですよ、そんな」
 さらに近寄られて、今度は思うように避けられない。こうやって褒めなければならないなんて、お貴族さまも大変だ──そうは思いながらも、女の子扱いというものをほとんどされたことのないアニーは、悪い気はしなかった。
 ただ、近い。この近さは恥ずかしい。
「喉が渇いたでしょう。おすすめのドリンクがあります」
「あ、ええと、さっきジュースを」
 だからいらないといおうと思ったのに、手を引かれてしまった。あっというまに給仕の元へつれて行かれ、気付けば右手には赤い液体の入ったグラス。
「これって……お酒?」
 酒ならば遠慮したかった。自覚はないが、アルコールに弱いらしい。
 しかし、青年は首を振った。
「ジュースですよ。せっかくですから、王宮の味を経験しておかなくちゃ」
「はあ」
 たしかに、こんな機会は二度とないかもしれない──アニーは赤い液体を、一口喉に流し込んだ。
「甘い」
 ほんのり甘酸っぱくて、木イチゴの味がした。アニーのあまり得意ではない、アルコール独特の刺すような風味はない。続けて、一気に飲み干す。
 気をよくしたのか、青年が再び給仕を呼ぶ。空になったグラスは、赤いそれと交換された。

「あれ……?」
 グラスが三回交換されたあたりで、異変に気付いた。
 体の芯が熱い。
 頭がぼうっとして、思うように脳が働かない。
 思わずよろめくと、慣れた手つきで支えられる。
 銀髪の青年が、心配そうに見下ろしていた。
「だいじょうぶですか? 顔が赤い」
「うう、近い」
 思わずつぶやいた言葉に、青年が不思議そうな顔をする。アニーは慌てて首を振るが、そうすることでよけいにくらくらした。
「少し出ましょうか。この空気にあてられたのかもしれません。廊下にソファがあったはず」
 ほとんど抱き抱えられるようにして、ホールを出る。重い扉の閉じる直前、ひらひらと踊る貴婦人たちが見えた。
 ダンス──心の片隅で、思う。
 あんなに、練習したのに。


 されるがままに廊下のソファに腰をうずめた。壁一枚を隔てているだけなのに、絢爛な空気はまるで違う世界のできごとのようだ。楽隊の奏でる音楽すら、遠くで響く。
 あの青年はどこへ行ったのだろうと、視線をさまよわせる。ぼんやりとした視界はひどく狭く、ホールの壁が映るだけだ。
「慣れない場所で、緊張もあったのでしょう」
 銀色の頭が視界に入り、彼は眉を下げてアニーの前髪を撫でた。
「心配だ。横になった方がいいかもしれません」
「いえ、そんな」
 だいじょうぶ、たぶん酔ってしまっただけだから。
 さっきのあれって、やっぱりお酒ですよね──?
 いいたいことはあれど、上手に声にならない。眠ってしまいそうになる思考をどうにか揺さぶって、自分の力で立ち上がろうとする。
「ほら、私に任せて」
 声は、すぐ耳元から聞こえた。あまりにも近い吐息に、アニーはびくりとする。
 いつの間にか、腰に手を回され、ほとんど抱きすくめられていた。
「え、ええと……」
 さすがに、アニーも予感した。
 これは、何かよくない方向に展開しようとしている。
「あ、あたし、調子悪いみたいだから、もう……」
 帰らなくちゃ──力を振り絞ったのに、それでも少しも動けない。先ほどまでの優しさが薄らいで、手に力が込められる。アニーは顔をしかめたが、彼はあくまで心配だというように、首を振った。
「ここからほど近いホテルに、部屋を手配してあります。さあ、安心して」
 安心などできるはずもなかった。アニーは力の限り拒絶しようとするが、女の、しかも酒に酔った微弱な力では、どうにもならない。そのまま、抱き上げられそうになる。

「──失礼」
 静かな、しかしはっきりとした怒気を含んだ声が、投げられた。
 朦朧とするなかで、その姿はほとんど見えない。けれど、アニーはそれがだれなのか、すぐにわかった。ほっとして、いっそう力が抜ける。
「何かな?」
「……あなたは、セディス家の方ですね。父主催のパーティで、何度かお会いしております」
「アーレンスの──」
 青年の顔色が変わった。アニーを抱く手も弱まり、そのまま気を失いそうになりながら、アニーは足に力を込める。ここで倒れているわけにはいかなかった。ソファに手を置き、立ち上がる。
「彼女をここへ招待したのが、他ならぬ国王であること──彼女の存在がどれほど重要か、ご存じでしょう。失礼ながら、彼女は些か、拒んでいるように見受けられますが」
「────っ」
 人当たりの良い仮面はそのままで、青年は舌打ちした。失礼、と形ばかりに頭を下げ、その場を後にする。
 一気に、脱力した。
 アニーは再びソファに崩れ落ちる。
「……ハンス……」
 ありがとう、といおうとしたのに、ハンスの怒気がしっかりと伝わってきて、上手にいうことができない。
 ハンスは無言でアニーの手を取った。そのまま、ずかずかと歩いていく。

  
 廊下をぐるりとまわり、ホールとは反対側のガラス戸を開けると、そこは花の咲き乱れる庭園だった。
 ほのかな灯りで照らされた庭園は、休憩所ということなのか、テーブルセットが複数並べられていた。その向こう側には、噴水と木々。今は水は涌いておらず、水面が月の光を受けている。他には誰もおらず、静寂を守っていた。
 外の風を受けることで、アニーは少しだけ意識がはっきりしていくのを感じた。少なくとも、世界がここに存在しないような、どうしようもない感覚でない。
「……君は、どこまでバカなんだ」
 ハンスはそういって、大きくため息を吐き出した。
 いい返すことなどできるはずもなく、アニーは口ごもる。
 きっと、浮かれていたのだ。
 ダンスパーティなどというものに、まさか出席する日がくるなどと思いもしなかったのだから。 
「ゴメン」
 正直に謝罪を口にすると、ハンスの眉がいっそう跳ね上がった。
「ごめん、じゃないだろう。僕がいなかったらどうしたんだ。あのままじゃ、部屋に連れ込まれて……」
「ごめんなさい! 反省してる、本当に。──それと、ありがとう、ハンス」
「……っ」
 今度は、ハンスが黙ってしまう。
 アニーは視線をさまよわせ、ベンチに腰を下ろした。まだ熱い息を吐き出して、ぐったりと体重を預ける。
「あたし、だめだなあ。なんだかすっごく楽しいところだって思ってたんだ。リーズ姉さんに、ドレスまでもらっちゃってさ」
「……そもそも、どういうつもりで来たんだ。ああやって、ちやほやされたかったのか?」
 ハンスの言葉にトゲを感じ、アニーは唇を尖らせる。
「そんないい方ないじゃん。招待状もらったんだから、そりゃ、行くよ。……なんでそんなに怒ってるの。あたしがバカだったけど」
「なんで怒ってるのか、わからないのか!?」
 今度こそ怒鳴られて、アニーは身をすくませた。なんだか、いつものハンスじゃない。様子をうかがうように彼を見るが、それが上目遣いになっていて、かつアルコールのために瞳がうるんでいることになど、アニーは気付かない。

 ハンスは、肩を落とした。
「……自覚が足りないんだ、君には。君がホールから姿を消して、僕がどれだけ心配したか、知らないだろう」
「え、そうなの?」
 アニーは目を丸くした。何の自覚かまではわからないものの、ハンスのこの怒りが自分を心配してくれたゆえだというのなら、なおさらもうしわけない気持ちになる。
 しかし、同時に、胸の奥があたたかくなるのを感じた。
 思わず、笑みが漏れる。
「えへへ」
 ハンスの眉が動いた。冷ややかに見下ろしてくる。
「なにを笑っているんだ。本当にわかってるのか?」
「うんうん、あたしってば愛されてる」
 そういうと、ハンスの動きが止まった。目を逸らし、数秒の後、ふたたび視線を戻してくる。ゴホン、と咳払い。
「……そういうことだ」
「え、なにが」
「…………いや」
 変なハンス、とアニーは笑った。
 パーティの空気も楽しかったが、やはりあれは人生に一度のイベントのようなもので、本当の楽しさとは違っていた。
 こうやって、心から落ち着けて、心があたたかくなる、空気。
 アニーが、ずっとずっと大切にしたいと思っているものは、ここにあるのだ。

「でも、残念だったなあ」
 かすかに聞こえる演奏に耳を傾けて、アニーはつぶやいた。
「何が、残念なんだ?」
「ダンス」
 ハンスの表情が険しくなる。アニーは身を引いて、弁解するように続けた。
「だって、練習したんだよ。リーズ姉さんに一通りしこまれてさ。厳しいんだから、リーズ姉さんのレッスン」
 しかし、ハンスの顔は元には戻らない。それどころか、より眉間のしわが深くなる。
「そんなに、踊りたかったのか」
 なんだか説教されているような気になり、しかし理由がわからず、アニーは慌てた。
「だ、だって……こんな機会って、もうないかもしれないし。ハンスも出るっていってたでしょ? だからここんとこ、秘密の猛特訓の日々だったんだよ」
 ハンスの目が、丸くなった。つられて、アニーもきょとんとする。
「あれ、何か変なこといった?」
「まったく、君は……」
 あきれたように、ハンスが笑った。その笑顔は、いつものそれよりもずっと優しい笑顔で、アニーは思わずどきりとする。

 月に照らされるハンスを、素直にキレイだと思った。女性に見間違えられるのもわかる、整った顔立ち。美しいだけでなく、ちゃんと男らしいことも、アニーは知っている。
 ダンスパーティということで、白い正装を着こなしている。見慣れた制服ではないその姿は、それだけで、ハンスの違う一面を見せていた。
 アニーは、まばたきすらできなくなっていた。
 いつだって真実だけを宿す、まっすぐな瞳は、いまはアニーだけを映している。
 ──すっと、ハンスが片膝をついた。
 手を差しだし、アニーを見上げる。
「では、僕と踊っていただけませんか、レディ?」
 アニーは思わず吹き出した。
「なにそれ! 似合わない! けど似合う!」
「──こ、こっちは真剣にやってるんだ! 練習してきたんだろう!」
 笑いすぎて、涙がにじんだ。アニーは目尻をそっと拭い、うなずいて、その手を取る。
「喜んで」
 立ち上がると、ドレスの裾をつまんで、一礼した。
「……最初からそうすればいいんだ」
「あっ、いまあたしだって真剣だったのに!」
「靴を踏まないでくれよ」
「──ぶー!」
 憎まれ口を叩きながら、どこかぎこちなく──それでも軽やかに、二つの影が月夜に舞う。
 ときおり笑いが漏れて、声を掛け合い、それはおよそダンスホールにはふさわしくないダンスだったけれど。

 等身大の、弾むような、二人のワルツ。






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この子たちはこうやっていちゃついていて欲しいです。
なんだか、消えている間はオリジナルを書いていたのですが、その時のクセが残って描写くどめ(当社比)です、すみません……。
最初に出てきてる豪商が誰とか、こっそり見守ってて正体ばれるどっかの王女さまとか、小ネタを用意していたものの、長くなったのでナシです。

ハンアニ書くのはやっぱり楽しいです。瀬名さま、甘いネタをありがとうございました!




**
誰もわかんないかと思ったら、嬉しいことに「これってエイリーじゃん!」というお声をたくさんいただきました。ありがとうございます><
エイリズも読んでみたい、というお言葉に甘えて、裏話ということで書いてみました。
『若き豪商とお忍び王女』 、よろしければ。


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