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『特製クッキー』

更新停止中です。……のハズ。
7月まで停止予定だったのですが、treasureをお二方から送っていただき、ずっと寝かしとくのも申し訳ない……というよりもったいないと思ったので、更新することに。せっかく更新するなら何か書こう、ということで書いてみたSSです。

押せ押せハンスで! 貴重!






*****






『特製クッキー』


「好きだ」
 まっすぐに見つめられ、両肩を掴まれ、真剣そのものの顔と声で告げられ、アニーは返答に窮した。
 これはどういう事態だろうか、と考える。
 ハンスに食べさせたらおもしろいことになるかもね、と渡されたリーズ特製のクッキーを、いわれるままに差し出しただけなのに。
 これのどこが、『おもしろいこと』だというのか。
「アニー、君は僕のことが、嫌いだろうか」
 冗談で終わる気配ではなかった。肩が痛い。
「き、嫌いだなんて。もちろん好きだけど――」
「だけど?」
「ハンス、ちょっと落ち着こうよ、ね?」
 どうにかなだめようと試みる。
 夕暮れどき、ぺぺは隣のショップ。こんな状況で、二人きり。
 好きだけど、の続きは、実のところアニーにもよくわからなかった。ハンスのことはもちろん大好きだ。だが、もしハンスの求める返答が、男女間のそれなのだとしたら――時間をくれ、としかいいようがない。考えたこともないのだ。セラ島に来るまではほとんど引きこもっていたぐうたら娘には、明らかに経験値が不足していた。
「僕は落ち着いている、アニー。真剣だ。心から君を愛していて……君が欲しいと、思っている」
「ほ、欲しいって! そんな、ものみたいに!」
 両手をつきだしてお断りのポーズをとると、どういうわけかハンスは小さく笑った。
 妙に気恥ずかしくなって、アニーはハンスから目を逸らす。このまま彼のペースに乗っかってしまうわけにはいかない。

 彼のこの状態が、リーズ特製クッキーの作用であるのは明白だ。おそらく、アニーが以前飲んでしまった、惚れ薬のようなものなのだろう――そこまで考えて、アニーはある可能性に思い当たった。
 あれは確か、時間が経てば勝手に効力が切れたはず。となれば、アニーがとるべき行動は一つしかなかった。
「い、いつから?」
 テーブルを挟んでハンスの反対側にまで回り込み、アニーは警戒心丸出しで質問を投げつけた。
 虚を突かれたのか、ハンスが目をまたたかせる。
「……いつから?」
「そう! だっておかしいでしょ、ハンスってばあたしのことは女の子だと思ってないっていってたじゃん。だから、あたしのこと――その、す、好きっていうのは、いつからかなあと思って」
 時間稼ぎ、時間稼ぎ……胸中で唱えながら、できるだけ長ゼリフで、アニーは質問を繰り返す。納得したように、ハンスがうなずいた。
「そこのところは、実は僕にも明確なものは……」
「ないの?」
「ない」
 きっぱりと断言され、アニーは薬の効力にケチをつけたい気分になった。やるならとことんまでやっていただきたい、と勝手な感想。
「いつの間にか惹かれていた。君の――何に対しても懸命で、全力で、自分のことしか考えていないようで周囲にいつも気を配っていて……他人のことで笑ったり怒ったり悲しんだりする、そういうところに」
「……なんかさりげなくけなしてるよね?」
「好きだと、いっているのに?」
 充分に距離をとっていたはずなのに、いつの間にかハンスはすぐ近くまで来ていた。話しながらも、少しずつ少しずつ、ごく自然に、距離をつめてくる。

 アニーはたじろいだ。
 得体の知れない何かにとらわれた気分だった。
 すぐに彼に背を向けて、アトリエを飛び出してしまえばいいのに、どういうわけかそれができない。
 それどころか、見つめられた瞳から、目を逸らすことすら、できなくなっていた。
「ちょ、ちょっと待って! 後悔するよ? ハンスのそれって、絶対さっきのクッキーのせいだよ! 食べさせたあたしがいうのも変だけど、でもこんなことになるなんて知らなかったし……」
「もう充分、待った」
 ハンスの目が、声が、近づいてくる。
 アニーは後ろに下がろうとして、身体が動かないことに気づいた。
 いったい自分はどうしてしまったんだろう――問いは宙に浮かぶばかりで、何の解決ももたらさない。
「君は知らないだろう、アニー。僕は、充分待ったんだ。僕は決して、君の夢の妨げになりたいわけじゃないから。でも――」
 再び、肩を掴まれた。
 ひどく優しく、けれど強く。
「――もう限界だ」
「は、ハンス……」
 これが本当に薬の作用だろうか、とアニーは疑問を持ち、同時に錬金術というものに恐怖に近い感情を覚えた。
 よく知るはずのハンスが、まるで違う誰かのようだ。
 いつだって、アニーの通る道を、その余地を残してくれるはずの彼が、いまは全身で、こちらを向いている。
 これでは、逃れられない。
「嫌なら、逃げてくれてかまわない」
 そう思ったばかりだというのに、ハンスがそう口にする。
 右手がアニーの前髪をかき分けるようにして額に触れ、耳に触れた。
 身を屈める。
 顔を、寄せてくる。

 唇が、近い。
 吐息が鼻先に触れ、何も考えられなくなる。
 あと3秒、
 2秒、
 1秒――
「――ッ、ぺぺ――――!」
 悲鳴に近いその声に、ぺぺは文字通り飛んできた。登場と同時に、手にした杖でハンスの頭を殴りつける。
 ものすごい音がした。
 どすん、とハンスが床に沈み、ぺぺが意外そうな声を出す。
「あれ、ハンス?」
「う……うわあん、ペペー!」
 泣き出しそうな勢いで、アニーはぺぺに抱きついた。ハンスは動き出す気配がない。モンスターをも一撃で倒す技が炸裂すれば、こうなるのは必然だ。
「なんだなんだ、なにがあったんだ?」
 ぺぺの問いに答えられるはずもなく、アニーは顔を隠すようにぺぺを抱きしめる手に力を込めた。
 いえるわけがない。
 このままキスされてもいいか、と思ってしまったなんて。
「これじゃあたし、変態だぁー!」
 アニーはとうとう、わんわん泣き始めた。アニーの手をふりほどこうともがきながら、ぴくりともしないハンスを見下ろし、一人状況のつかめないぺぺは、天井に思いをぶつけた。
「いったい何があったんだー!?」





「この前の一件でもうこりごりなんだから! 惚れ薬とかそういうのはナシだよ、リース姉さん!」
 翌日、雑貨屋に飛び込んできたアニーは、ぷんすか怒りながら残りのクッキーを突きつけていった。
 目を丸くしながら、リーズはクッキーを受け取る。憤然と雑貨屋を出て行くアニーを見送り、首をかしげ、
「素直になるクッキー……なんだけど。ナニ怒ってんのかな」
 ポツリとつぶやいた。

 後日、真相を把握したリーズは、この事実を自分だけの胸にしまっておくことにした。
 うっすらと事態を覚えているらしいハンスが蜃気楼のように漂っているのを目撃し、さすがに罪悪感を覚えたとか覚えていないとか。


 
 




 
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『きみしかみえない』の逆みたいなことをほんのりやりたくなったので。
押せ押せハンス、薬じゃない形で、いつか書いてみたいです。

 
 
 
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  Name : 光太朗。
  性別女、またの名を光太朗子。
  『アニーのアトリエ』ハマり中。

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