FC2ブログ

『蛍』

陽さまに素敵なイラストをいただいたので、イラストを元にちゃちゃっとSS。題名の通り、蛍ネタです。
作中で、いただいたイラストが出てきますが、文字ありバージョンはtreasureのページにあります。

ハン(→)アニ、アニー視点です。






*****






『蛍』


「蛍を見に行かないか」
 あとはこれとこれとこれをギルドに納品して終わり──まさにそのタイミングで、いつの間にか来ていたハンスに声をかけられ、アニーは固まった。
 思考が追いつかない。何しろここのところ、依頼が山積みで息抜きどころではなかったのだ。たいして寝てもいない。蛍、蛍ってなんだっけ──錬金術モードから日常モードに切り替えようとするが、頭が働かない。
「ほたる?」
 どうにか声をあげる。抱えていた荷物を落とさないように。
 視線が合うと、ハンスはばつの悪そうな顔をした。タイミングの悪さに気づいたのだろうか。なんにしても後にして欲しいといおうとすると、ハンスはアニーの手からほとんどの荷物を取った。
「ギルドか?」
 どうやら、手伝ってくれるということらしい。アニーはうんと頷いた。


 ギルドへ依頼品を納品して、おごってくれるというのでそのままレストランへ。道すがらのハンスの説明で、アニーは納得した。開発が始まると同時に姿を消していたという蛍が、滝つぼに戻ってきたらしい。本土で見られるものとは異種で、珍しいものだから見に行かないか、とのこと。
「でもそれって、みんなが見に行っちゃったら、やっぱり蛍、いなくなっちゃうんじゃないの」
 パスタと格闘しながら、アニーが素朴な疑問をぶつけてみる。
 ハンスは複雑な顔をした。
「蛍を見るという行為そのものを観光として取り上げ、滝つぼを整備することは僕も賛成しかねる。──が、存在を知る者が、各々で見に行くぐらいなら問題はないだろう」
 なんだか難しい言い回しをした。各々で、という言葉に、アニーは考えてみる。蛍といえば夕暮れだ。
「それじゃああそこ、ますますデートスポットだね」
「──そ、そう、だな」
 なぜかハンスの声がうわずった。

「なになに、デート? デートするの?」
 やはりランチに来たらしいリーズが、話を聞きつけてやってきた。目がきらきらと輝いている。違うよー、とアニーは笑った。
「蛍見に行くだけだよ。ね、ハンス?」
 呼びかけると、ハンスは固まった。ほんの少し目線を逸らすようにして、
「あ、ああ」
 歯切れの悪い返事。
「ふぅぅぅん」
 リーズの目がますます輝いた。
「じゃ、あたしも行っていい?」
「あ、いや──」
「うんうん、じゃあフィズたちも誘おうか!」
 それは素敵な思いつきだと、アニーは忙しく働くフィズを見る。彼女はこちらの話を聞いてはいないが──なんといっても昼食時だ──誘えば来てくれるはずだ。
「アニー」
 ぽん、とリーズがアニーの肩に手を載せた。なぜか重々しく息を吐き出し、首を左右に振る。
「あたしが悪かった、二人で行ってらっしゃい」
「へ、なんで? 一緒に行くんじゃ──」
「いいから」
 そういわれてしまえば、頷くしかない。
「じゃあ、二人で行こうか」
 ハンスを見ると、なぜか頭を抱えるようにして、深くうなだれていた。



   *



 夕方、滝つぼについてみれば、思ったほど人はおらず、いつもどおりだといってよかった。
「まだ、蛍のことはあまり知られていないからな」
 同じことを考えたのか、ハンスがいう。いつも採取するポイントから離れた、静かな川辺に腰を落ち着かせた。
 周囲に人はいない。日が暮れそうな空気はヒヤリとしていて、虫の声も、鳥のさえずりも聞こえてこない。
 アニーは荷物を下ろすと、そこからポットとココロンを取り出した。ハイ、とハンスにも手渡す。
「……用意がいいな」
「蛍って、うまくいかないときは長期戦でしょ?」
 にこりと笑うと、どういうわけかハンスは目を逸らす。不思議に思いながらも、アニーは袋を開け、ココロンを口の中に放り込んだ。
 甘い。
 温かい茶を喉に流し込むと、息が漏れた。

 ここのところ、ずっと忙しく動いていた。こうしてゆっくりと景色を見るのなんて、いったいいつ以来だろう。
 滝つぼだって、採取のためにしょっちゅう訪れている場所だというのに──まるで知らないどこかのように新鮮で、アニーは思わず笑みをこぼした。
「……どうした?」
 急に笑い出したことに不審に思ったのか、隣のハンスが聞いてくる。うん、とアニーははにかんだ。
「あたしがバタバタしてるの見て、誘ってくれたんでしょ? ありがとう。なんか、落ち着くよ。たまにはこういうのも、いいよねえ」
 川の向こう、闇に紛れそうな木々を眺めながらそういうと、ハンスが肩をすくめる気配がした。
「余裕がなくなるようでは、錬金術大会にも支障が出るからな」
「ぶー、出ないよー。むしろどんどんレベルアップで、本当にマイスターに選ばれちゃうかもよ。最近、楽しいんだよね、錬金術」
「見てればわかる」
 ごく当たり前のことのように肯定され、アニーは目をまたたかせる。自分の中では驚くべき事実だったのだが、ハンスにはお見通しだったようだ。
「わかるが……あまり根を詰めるのはよくないな。ここのところ、あまり寝ていないだろう。ぺぺも心配していた」
「ぺぺが? うっそだぁ」
「…………」
 嘘じゃない、とはいわず、ハンスが微妙な顔をした。嘘ではないが、明確に「心配」という言葉を使ったわけでもないのだろう。いったいぺぺがハンスになんといったのか、想像するだけで肩が震えた。あの師匠は優しいところももちろんあるのだが、それをオモテに出すようなタイプではない。
「いいんだよ、本当に、楽しいの。なんだか、新しいことがどんどん広がっていく感じ。やっぱり人生、寝てるだけじゃわかんないことあるよね」
「……あたりまえだ」
 ハンスが息を吐き出す。これまでの睡眠第一主義の生活を思い起こして、アニーも苦笑した。

「だが、錬金術以外のことにも、たまには気持ちを向けてくれよ」
「錬金術以外って?」
 問い返せば、ハンスは言葉に詰まった。解答を探すように視線をさまよわせ、それから咳払い。
「そ、それは君が自分で考えることだ」
 結局、釈然としない返し。ふうん、とアニーは鼻を鳴らす。
 錬金術以外の、こと──いまはこんなに、錬金術が楽しくて仕方がないのに。
 そういえば、リーズにも恋をしろだのなんだのいわれていたのだと思い出した。
「恋、とか」
 ぽつり、とつぶやく。ハンスが大げさにのけぞった。
「……なにその反応」
「こ、恋?」
「なに? あたしが恋とかいったらおかしい? そんなにおかしいのっ?」
 頬を膨らませる。あまりにも失礼な反応だ。謝るわけでもなく、ハンスはいいにくそうに、言葉を選ぶようにして聞いてきた。
「恋……を、しているのか?」
「うん、王子様に」
「……それは恋ではないだろう……」
 ハンスが肩を落とす。そんなことはわかっていたので、アニーは特に反論しなかった。恋がどうのといわれても、よくわからないのが現実だ。
 いまは、錬金術が楽しい。それでいい。
 ずっと夢見てばかりで、自分の足で動いてこなかったのだから。新しいことは少しずつ、一歩ずつ進んでいければ、アニーにとっては充分だった。

「ハンスは、恋、してるの?」
「え」
 何気なく聞けば、まるでそれこそ恋する乙女のように、ハンスの頬が赤く染まった。
 かえって冷めた気分で、ハイハイ、とアニーは流す。しているわけがない、女性があれほど苦手だというのに。
「僕は──」
 ハンスが何事かを続けようとする。
 しかし、それを聞く前に、アニーは声をあげた。川の上、小さな小さな、仄かな光。
「いた!」
 叫んでしまってから、慌てて口を押さえる。静かにしていなければ、逃げてしまう。
 ハンスに目配せをすると、彼もそちらを見ていた。
 音をたてずにじっと待つ。小さな光は、一つ、また一つと増えていった。
 闇を背景に、複数の光が踊る。それぞれがささやき合い、まるで歌うように。

 それはひどく幻想的な光景で、アニーは知らず、ため息を漏らしていた。
 蛍を見るのは初めてではない。けれど、これほどの光に包まれていると錯覚することはなかった。
 そのうちに、光がふわりと漂ってきた。それはハンスの元までやってきたかと思うと、白い手袋の上にとまった。
「わ、とまった」
 二人で、のぞき込む。アニーは光を守るように、手をかざした。




ハンアニ





「綺麗」
「ああ」
 小さな光は、なにもいってはこなかった。
 それでも、今日という日を彩っているかのようで、アニーは目を細めて、愛しい光を胸の中にそっとしまう。 
 時間にすれば、ほんの数秒のことだったろう。
 気まぐれな蛍は、またふわりと空へ舞い上がる。

 見上げる先には、いつのまにか星が瞬いていた。星の中に蛍がとけ込んでいく錯覚を覚え、アニーは空を仰ぐ。
「きっと、星になるんだねえ」
 そんなことをつぶやけば、ハンスが笑う気配。おかしなことをいっただろうかとハンスを見ると、視線が合った。ひどく優しい顔で微笑んでいる。
「そうだな。……そうすると、今日で星が一気に増えることになる」
「ね」
 そうして、二人で吹き出した。


 蛍を見ているうちに、アニーは、これは夢だったろうかと、おかしな感覚に陥った。
 美しい光景が、透明な光に紛れる。幾重にも幾重にも、まるで大切に守られるように。
「────あ……」
 視界が揺れて、アニーはやっと、襲いかかる睡魔に気づいた。
 寝ていない日が続いたのだから、ごく自然なことだった。とはいえ、こんなところで寝るわけにはいかないと、なんとか眠気を制そうとする。
 しかし、限界だった。
 隣のハンスに、寄りかかる。ごめんムリ、と一言かけたいのだが、それすら声にならない。

 アニーはそのまま寝入ってしまった。
 優しいぬくもりに、すべてを預けて。






 翌日、どうやらアトリエまでアニーを運んでくれたらしいハンスにこっぴどく説教されるのだが、それはまた、別の話。

 

 
  
 

────────────
いただいたイラストにビビビとインスピレーション! むしろイメージ壊してなければいいのですが><
蛍、最近見に行ってないです。行きたい。癒されたい。でもイラストでチャーージ!!

忙しくなりそうなので、しばらくSS更新停止のはずが、勢い余って書いてしまいました。今後は停滞予定……予定;、です。

  TOP


Menu

  はじめに
  SS
  LONG
  頂き物
  小ネタ・バトン
  拍手レス・雑記



Gust

   ガストゲームズサポーターズリンク「マナケミア・アルトネリコ2」公式サイトはこちらへ!

Rank etc

   アトリエサーチ!
   (GC)GAMEHA.COM - ゲーム派ドットコム


Profile

  Name : 光太朗。
  性別女、またの名を光太朗子。
  『アニーのアトリエ』ハマり中。

  本家オジリナル小説サイト↓↓
  『光太朗小説処』へ


Links


→ Reset