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『バースデープレゼント』 2

続きです。前回よりもちょっと甘いような気がします。






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『バースデープレゼント』 2


 決戦の日がやってきた。
 アニーの誕生日、当日。
 ノックをしても出てきてくれないのではと思いつつ、ハンスはアトリエの戸を叩いた。
「アニー、僕だ。ちゃんと用意した。開けてくれないか」
 返事がない。
 じりじりとした、重い沈黙。
 もうずいぶん前から休暇の申請を出していた、この日。約束はしていないが、二人で過ごすと決めていた。けれどそれは一方的なもので、もしかしたらアトリエにいないのだろうかと、嫌な予感。
 まだ日は高い。どこかに外出している可能性は、充分にある。
 ハンスは首を振った。今日に限って、それはない――と、思いたい。

 カチャリと、ほんの少しだけ、扉が開けられた。
「……用意、したの?」
 隙間から顔をのぞかせて、アニーが聞いてくる。
 一週間以上見ていなかった反動で、すぐにでも抱きついてしまいそうだった。ハンスはどうにか自分を制しつつ、ああ、とうなずく。
「だから、中に入れてくれないか。それと……これ」
 白い箱を持ち上げた。アニーの好きなパティスリーの、バースデーケーキ。
「わっ、ケーキ! いいよ、許す!」
 アニーの表情が明るくなった。心の中で心底ほっとして、それでも表面には出さず、ハンスもアトリエに足を踏み入れる。

 ぺぺの姿はない。気を利かせ――るとは思えないので、何か用事があるのだろう。
 テーブルの上には、二人分のカップと皿が用意されていた。アニーがせっせと紅茶をいれて、バースデーケーキを切り分ける。
 どうやら、自分は待ち人だったようだと、ハンスは胸をなで下ろした。アニーの入れた紅茶は、ハンスの好きなそれだったのだ。
「久しぶりだな」
 そういうと、アニーは首をかしげた。
「そう? 一週間と、ちょっとでしょ?」
「……そうだが」
 ハンスは息をつく。ひょっとして、彼女にとってはたったそれだけ、なのだろうか。
「ね、ね、じゃあ、ちょうだい! プレゼント!」
 アニーは瞳を輝かせて、そう催促してきた。この期に及んで逡巡しながらも、渡さないわけにもいかないので、ハンスはリクエストされた品を差し出す。
 宛名のない、白い封筒。
「やった! ラブレター!」
 それこそが、ご所望の品だった。
 アニーの手に渡ったラブレターを、すぐにでも取り返したい衝動に駆られる。ハンスは自分で自分の手を押さえた。これを書き上げるのに、どれほど苦労したことか。

「読んでいい?」
「いま、ここでか!?」
「うんうん、いまここで」
 にこにこと笑いながらそういわれてしまえば、ダメといえるはずもない。力なくうなずくと、アニーは喜々として便せんを取り出した。
「ええと、親愛なるアニーさま――」
「声に出して読むのかっ?」
 ハンスは思わず耳を塞いだ。それはさすがに恥ずかしい。
 しかし、アニーはまったく意に介さず、続けた。

「拝啓、爛漫の候、ますますご清祥のこととお慶び申し上げます。随分ご多忙な日々が続いていらっしゃるかと存じますが、この頃はいかがお過ごしでしょうか……――」
 アニーは、黙ってしまった。
 続きを読んでいるのか読んでいないのか、長い長い沈黙。
 やがて、不満そうな目を、ハンスに向けた。
「ナニコレ」
「な、なにって……」
 これでもかと頑張ってしたためた力作に、この反応。どうこたえたものかと思いながら、ハンスは正直に告げた。
「君が欲しいといった、『ラブレター』だが」
「ラブレター! これが!? 意味の分かんない言葉多すぎだよ!」
 それは盲点だった、とハンスは焦った。
「し、しかし、それは君の語彙の問題で……」
 どうにか弁解を試みたのだが、アニーはよりいっそう眉をつり上げる。
「ラブレターってこういうものじゃないの! もっと甘い、とろけるようなやつなの!」
「甘い、とろけるよう、な……?」
「もういい!」  
 バン、とアニーはテーブルを叩いた。
 用意されたまま手つかずの紅茶とケーキが、驚いたように小さく跳ねる。
 アニーは剣呑な目つきで、立ちすくんだままのハンスに詰め寄った。

「口でいって」
「――――!? く、口で? 何を……――」
「甘くてとろけるようなこと」
 ハンスは息を飲んだ。どうやら彼女は、本気だ。
 言葉に詰まる。甘くてとろけるような――といえばそれは、好きだのなんだの、というヤツだろう。
 つきあい始める際、先に思いを告げたのはハンスだ。だがそれ以来、口にしていないような気がする。
 それは、ハンスにとって、恐ろしく気力のいることだった。
「そんなこと……いまさらいわなくても、わかってるだろう」
「そんなこと?」
 問い返されて、はっとした。これでは、以前のやりとりと、同じだ。
 アニーはハンスを見つめたままで、唇を噛んだ。
「……聞きたいんだよ」
 つぶやく。
 大きな瞳が潤んで、いまにも涙がこぼれそうだ。
 ハンスの脳裏に、不安、という言葉がよみがえる。女の子は不安なのだと、リーズがいっていた。それはきっと、ハンスの想像よりもはるかに――

「ハンスはお仕事も忙しくて……お仕事だけど、綺麗な女の人ともたくさん会ってて。あたしに会っても、いつも、なんでもない顔して。――あたしは……」
 アニーが、ぎゅっとハンスの服を握りしめた。
「……あたしは、こんなに、好きなのに」
 消え入りそうな声に、ハンスは思わず、アニーを引き寄せていた。
 考えるよりも早く、アニーの唇に、自身のそれを押しつけた。長く、長く、彼女のすべてを自分のものとするかのように。
「ん……」
 アニーが身じろぎする。それでもさらに力を込めて、抱きしめる。
 やっと顔を離せば、アニーは濡れた頬を真っ赤に染めていた。愛しさに笑んで、ハンスは頬の涙を唇で拭った。
「好きだよ」
 一言。 
 いつだって胸にある言葉を、口にする。
「愛してる」
「…………うん」
 思いを口にしたというのに、どういうわけか、先ほどよりも大粒の涙が、アニーの目からこぼれ落ちた。
「嬉しい……」
 泣き笑いのような顔に、たまらなくなって、ハンスはアニーを抱きしめる。ずっとずっと、強く。そのまま、もう一度、唇を重ね――

 ――ようとしたその瞬間、アトリエの扉がノックされた。
「…………」
 ハンスは固まった。晴れてつきあい始めたというのに、覚えのあるこのパターンは、まさか今日という日も変わらないのか。
 ぐしぐしと涙を拭って、アニーが扉を見る。
「あ、おじいちゃんかな。誕生日に来るって手紙があったんだ」
「お……」
 おじいちゃん――!!

 魂の叫びは声にならず、ハンスは慌ててアニーから離れる。用意してあったその他諸々のプレゼントを渡すどころでもなく、床の上に正座した。 
 場合によっては額を床にこすりつける覚悟で。


 ――二人っきりの幸せは、まだほんの少し、遠い。
 
 
   
 

────────────
ぐわんぐわん、恥ずかしいーー!!
けど満足!!
いざ付き合い始めたら、ハンスってば仕事仕事な気がするわけです……アニーは付き合い始めたら押せ押せだろうから、不安になっちゃうんじゃないかと><
ちょっぴりラブレターの全文が読んでみたいなとか思います(でも書く気力はなかった。

長くなってしまいましたが、全部読んでくださって、ありがとうございました><

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  Name : 光太朗。
  性別女、またの名を光太朗子。
  『アニーのアトリエ』ハマり中。

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