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『ベビーシッター』

元々書いてたのがうまくいかなくて、何度か書き直し、思い立ってアニー一人称。失敗の予感。
瀬名さまからいただいたネタです。
本当はアニーが見つけて、だったのですが、ハンス君が頼みに来てしまいました。

想像(妄想)段階ではもっと甘かったのに><

ベビーシッター、正確な定義と異なるみたいですが、ここではそこはスルー。
瀬名さま、素敵ネタをありがとうございました!!





*****





『ベビーシッター』


 コンコン、といつものノック。
 それからすぐに、コンコンコン、と小さな音。
「し、失礼する……」
 聞こえてきた声にはなんだか力がなくて、あたしは思わず釜をかき混ぜていた手を止めた。

「大変だよぺぺ、これは事件の香り……!」
「調合が失敗しそうだからって、逃げたいだけだろ」
 ぺぺはいつだって冷静だ。そんでもってかわいくない。
 あたしはあえて答えずに、ハイハイ、と扉に向かった。客が来ているのに扉を開けるな、とはさすがにぺぺだっていわないから。
 なんだかんだで頻繁に来てくれるハンスに、実は感謝している。面倒ごとや説教は苦手だけど、最近ハンスは、たいした用もなく来ることが多い。よしよし、今日もテキトウにお茶して時間をつぶそう。
 そんでこのままじゃ灰になるのが目に見えてる調合のことは、とりあえず忘れよう。そうしよう。

「空いてるよ~、いらっしゃい」
 ガチャリ、とアトリエの戸を押し開けた。
 立っていたのはもちろんハンスだったけど、挨拶をしたのは別の声。
「こんにちは、おねえちゃん」
 下からの声に、あたしは視線を落とす。
 思わず、息を飲んだ。
「か……! かわいい!! なに、どういうこと、ハンスの隠し子ッ!?」
「冗談でもやめてくれ……」
 あたしを見上げていたのは、くるくる巻き毛の小さな女の子。
 その子としっかり手をつないで──というかつながされてるみたいに見える──、ハンスは疲れ切った声でそういった。



   *



「うわあっ、やーらーれーたー! ガクッ」
 あたしは大げさによろめいて、床に倒れた。
 巻き毛の女の子──セリアちゃんっていうらしい──は、キャァキャアいって笑ってる。それが嬉しくて、もう一度襲いかかるフリ。だけど小さな拳で反撃にあって、やっぱりオーバーリアクションでガックリ倒れる。
「……で、今日も錬金術の修行は進まないわけだな」
 ぺぺの呆れたような声が聞こえるけど、聞こえなかったことにする。だって、小さな子がいるのに薬品なんて触ってたら、危ないじゃん。なんてまっとうな理由。
「助かった。本当に困っていたんだ。子守なんてやったこともないし……藁をもすがる思いでここへ来たんだが」
「だいたい、なんでハンスだよ。どう考えても不向きだろ」
「……否定はしないが」
 なんだか男性陣が年寄り臭い。

 あたしは、ヒョイとセリアちゃんを抱き上げると、勢いをつけてぐるりと回した。大笑いで喜んでる彼女の顔をのぞきこむ。
「ね、おやつ食べる?」
 子どもの心を引くっていったら、やっぱり甘いモノだ。ぺぺしかり。
「たべるー!」
 セリアちゃんは元気に返事をしてくれた。
「おやつ、おやつッ!」
 あたしは思わず歌い出す。セリアちゃんも一緒になって、声をそろえておやつの歌。
 なにがいいだろう。やっぱり、チョコ系が好きなのかな。それともカステエラ……あ、どっちにしろ、いまはカステエラしかないや。
 セリアちゃんをちょこんと椅子に座らせて、あたしはティータイムの準備を始めた。セリアちゃんには、もちろんミルク。


「心から君を尊敬したのは初めてかもしれない、アニー。やはり、精神年齢が近いということだろうか」
「それってケンカ売ってるよね」
 真面目な顔でハンスがいってきて、あたしは彼の前にわざと大きな音をたてて紅茶を置いた。セリアちゃんは二歳半だっていうのに、なんであたしと精神年齢が近いってことになるの。
 全員分を用意して、最後にあたしも椅子に座る。セリアちゃんの隣だ。
 いただきます、と丁寧に挨拶をして、セリアちゃんは上手にフォークを使ってカステエラを食べ始めた。
「おいしい! おねえちゃん、ありがとう!」
「う~ん、おりこう! かわいい! お姉ちゃんはセリアちゃんのほっぺを食べたいぃー!」
 ほとんど本気でいうと、いさめるつもりなのか、ハンスが咳払い。まったく、そんなだから子どもの相手ができないって、わかってるのかな。

「でも、大変だね。ハンスもだけど……セリアちゃんのお母さんと、赤ちゃん。夕方には、戻れるの?」
 あたしもカステエラを口に運びながら、ハンスを見た。ハンスはいつもの二割増しで生気がない。数時間は、ひとりでセリアちゃんと格闘したのだそうだ。
「ああ、恐らく。ただの風邪、だとは思うから」
「マー君、すごくお熱あるんだよ。セリアはおりこうに、まってるの」
 セリアちゃんが、けなげにもそういって拳を握る。この子だってまだ二歳だ、旅行先でお母さんと離れて、知らない──しかもお堅い──お兄ちゃんと二人で、心細かったに違いない。
 ハンスの説明によると、セラ島に旅行に来たはいいけど、セリアちゃんの弟が原因不明の発熱。すぐに病院へ、ということになったらしい。感染る類のものだったらいけないし、そうでなくても小さな子を病院に同行させるのは不安だといって、セリアちゃんを委員会本部に預けに来たとのこと。で、たまたま対応したハンスが、面倒を見ることになった、と。
 ん、ということは、リゾート施設に託児所、っていうのはありかもしれない。うん、覚えておこう。
「セリアは、おねえちゃんだから、おりこうなの」
 カステエラを食べながら、セリアちゃんがつぶやく。
 寂しいのを我慢しているのがよくわかって、あたしはなんだかたまらなくなって、セリアちゃんの頭をなでなでした。イイコだなあ。 

「アニー、なんか子どもの扱いに慣れてないか? ちょっと意外だな」
 ぺぺが、珍しく褒めるようなことをいってきた。あたしは小首をかしげる。
「そうかな。別に、慣れてるってこともないけど──あ、ウソ、子守ならぺぺで充分慣れて……」
「……へええ?」
「イエ冗談です」
 そんな本気で怒んなくたっていいのに。
「本当に、もっと早くに連れてくるんだった。僕では……ダメだ。なんというか。何をすればいいのかわからない」
「難しく考えなくても、自分がやって楽しいこと、一緒にやればいいだけだよ。ねー?」
 セリアちゃんに同意を求めると、わかってるんだかわかってないんだか、にこにこ笑いながら、
「ねー!」
 全力で同意してくれた。うう、本当にかわいいよ。どうしようこの子。
「つまり、やっぱり、精神年齢か……」
「だな」
 ハンスとぺぺが、揃って聞き捨てならない結論にたどり着く。どーしてそーなるかな。

 そうこうしているうちに、あっという間にカステエラがなくなってしまった。
 でも、なんだか、セリアちゃんは物足りなさそうだ。
「……ね、一緒に、作ってみる?」
 あたしは調理器具を引っ張り出してきて──もちろん包丁とかはダメ!──、セリアちゃんを誘惑。彼女は目を輝かせて、ウンと頷いた。



 あっという間に、アトリエ内は大惨事になった。
 そこら中に小麦粉が散らばってる。割れちゃった卵も一つや二つじゃなくて、料理というよりちょっとしたバトル状態。
 けど、セリアちゃんは楽しそうだ。
 あたしも粉まみれになって、一緒になってタネをかき混ぜた。なんだろう、こういうのって──
「──なんか、童心に返ったっていうか! 楽しいよね!」
「……君はいつだって童心だろう……」
「オイラ、掃除しねえからな」
 ハンスとぺぺにはわからないみたいだ。まったく、二人して、カタイ!
「お姉ちゃん、これは?」
「入れちゃえ、入れちゃえ!」
 どこからか見つけてきたフルーツも、どんどんボウルに追加。もうナニが完成するんだかわかんないけど、楽しいからヨシ!
 そうしてできあがったタネを、型に流し込んだ。
 あとは、焼き上がるのを待つだけだ。
「お姉ちゃん──」
 なんだかおずおずと、セリアちゃんがあたしを見上げてきた。
 あたしはしゃがんで、セリアちゃんの目をのぞき込む。
「どしたの?」
「あのね」
 彼女はいいにくそうに、とっても小さな声で、抱っこ、といった。
 たまらなくかわいくて、甘えてくれるのが嬉しくて、あたしはぎゅうっとセリアちゃんを抱きしめる。そのまま立ち上がって──
 ──すぐに、寝息が聞こえてきた。
 まだ、外は明るいけど。きっと、疲れてたんだ。

「し、静かにな、った……」
 これといってなにもしていないはずのハンスが、大きくため息を吐き出した。ぐったりと、椅子に座る。
「置いたら、起きるんじゃねえか?」
「そうかな」
 そうなったら、また抱っこすればいいだけだもんね。あたしは、セリアちゃんを、そうっとそうっと、あたしのベッドに横たわらせた。
 起きそうにない。
 もしかしたら、眠いのを我慢していたのかな。迷惑かけちゃいけないって、この子なりに。
「かわいいなあ」
 うっとりとセリアちゃんの寝顔を見て、くるくるの巻き毛を撫でた。
 ハンスも、ベッドまで寄ってくる。
「寝ていると、天使だな」
「起きてても天使だったよ」
「……あれは天使とはいわないだろう」
 ため息混じりの、声。そんなことないと思うけどな。

 そのまま、じっとセリアちゃんを眺めていたら、視線を感じた。
 隣を見る。
 ハンスが、あたしを見てた。なんだか、真剣な顔で。
 ……えーと。
「ハンス?」
 呼びかけると、ハンスは飛び上がる勢いで、慌てて目を逸らした。
「む、失礼な反応。なんでそんなあたしの顔見てたの、かわいいなあとか、そういうこと思っちゃった?」
 もちろん冗談でからかったんだけど、ハンスはあからさまに首を振って、
「そ、そんなわけないだろう!」 
 力一杯、否定してきた。ハンスって、あたしにいわせればなんであんなにモテるのか謎だ。そこはウソでも、そうだっていえばいいのに。
 まあ、それがハンスだけど。
「オイラも疲れた……誓って、掃除はしないからな。アニーとハンスでやっとけよ」
 ぺぺがそういい捨てて、さっさとショップに行ってしまう。それでもいままでつきあってくれたのは、ぺぺ師匠の優しさってやつなのかもしれない。
 でも……これ、片づけるのは、厳しいなあ。
「ねえ、ハンス~」
 ちょっと甘えた声を出してみた。
 ハンスは挙動不審で、急いで距離を取る。
「な、なんだ」
「あたし、お片づけできないから、お願いしていい?」
 ハンスが、ため息を吐き出した。ちっ、やっぱりダメか。
「……僕も手伝うから、ちゃんと片づけよう。このままじゃ、錬金術の修行どころじゃないだろう」
「わ、手伝ってくれるの? ハンス優しい!」
「し──っ」
 思わず声を大きくしたあたしに、ハンスが人差し指をたてる。あたしは慌てて息をひそめた。
 セリアちゃんが寝てるんだった。危ない、危ない。
「……セリアちゃん、起きてから、だね」
「そうだな」
 二人して声を潜めてるのがなんだかおかしくて、あたしたちは顔を見合わせて笑った。ハンスもきっと、子ども嫌いってわけじゃないんだと思う。だってセリアちゃんを見てるハンス、すごく優しい顔だったから。


 コンコン、と控えめなノック。
 あたしはなんだかひらめいて、返事はせずに扉を開けた。赤ちゃんを抱いた女の人が立っていて、すぐに予想が当たっていたのだとわかった。
 赤ちゃんは眠っていた。セリアちゃんとよく似た寝顔。どうやら、たいしたことなかったみたい。
 小さな声で、セリアちゃんが寝ているのだと告げると、セリアちゃんのお母さんは何度もあたしたちにお礼をいった。若いお母さんだ。不安だったのは、この人も一緒だったに違いない。

「知らない場所で寝るなんてこと、いつもはないのに──よっぽど、リラックスできたんだと思います。本当に、ありがとうございました。あなたに──あなたたちに、お願いして良かった」
 寝ているセリアちゃんにほっと頬をほころばせ、お母さんはそんなことをいってくれた。
 なんだか照れくさくて、あたしはえへへと笑う。
「ハンスじゃぜんぜんダメだったんですよー。ここに連れてきたハンスの判断力だけは、褒めてあげてください」
 ハンスがむっとするのがわかる。もっともらしく咳払いをして、
「……子どもの気持ちは子どもにしかわからないと思ったからな」
 お母さんの前だっていうのに、相変わらずの調子。さすがにあたしはカチンとした。
「あ、ちょっと! もうちょっと感謝したらどうなのー!」
「──しっ、起きたらどうするんだ!」
「あ、しまった」
 口を押さえて、ハンスと二人して、そっと背後を確認した。
 セリアちゃん、ちゃんと寝てる。良かった。

 くすくすと、お母さんが笑った。
「なんだか本当の、夫婦みたいですね。主人と出会ったころのこと、思い出します」
 ──えええっ。
 あたしは反応に困ってしまって、言葉の意味を真剣に考えてしまった。
 ふうふ、って。
 それじゃ、玉の輿にならないじゃん──あ、ちょっと待って、ハンスの家ってお金持ちかな?
 ちらりとハンスの顔を見たら、まるでオトメみたいに真っ赤になっていた。
「や、やめてください!」
 なんだかあわあわしてる。むー。
「やめてください、はヒドイんじゃないのー。いいじゃん、夫婦。ね、ア、ナ、タ」
「……君は、もう少し冗談のセンスを磨くべきだ!」
「へいへい」
 思わず口をとがらせた。本当にもう、カタイんだから。
 お母さんは、肩を震わせて、もう一度楽しそうに笑った。


 結局、遅くなってもいけないからとセリアちゃんを起こし、何度も何度もお礼をいって、セリアちゃん一家は帰って行ってしまった。もちろんおみやげに、焼き上がったカステエラ──らしきものを、持って。
 後日改めてお礼に、なんていってたけど。また遊びに来てくれるなら、それが一番だなと思う。

 次の日、ハンスに冗談で「アナタ」って呼びかけたら、今度こそ本気で怒られて、小一時間みっちりお説教されてしまった。
 ハンスだって、冗談というものをもっと理解すべきだ! と、思う。
 
 




────────────
──長ッ!
こっそりいつもの倍程度。なぜ一人称なんていう暴挙に出たのか。
アニーの一人称だと、いつも以上に甘くなりませんでした……嗚呼。
た、たまにはこういうのもアリということで……><。


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