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『その後のアニー』

瀬名さまから、『きみしかみえない』の記憶が消えていないということで、アニー視点で──とリクエストいただきました><
おおお、それはおいしそうだ!!

というわけで、きみしかみえないの続編です。
『きみしかみえない 3』にしてしまうのはなんか違うかなと思ったので、題名変えて改めて。そのまんまですが。
素敵な萌えネタをありがとうございました!!






******





『その後のアニー』


 コンコン

 響いたノック音に、アニーは飛び上がった。
 恐る恐る、扉を見る。
「アニー? 客だぞ」
 図鑑を眺めていたぺぺがわかりきったことをいってきて、アニーは小さくうめくような声を出した。
 コンコン、とノックが続く。
「いないっ、あたしはいません!」
 アニーはきっぱりといった。扉の外には聞こえないように、小さく、しかし鋭く。
「いませんって、いるじゃねーか。たぶんハンスだぞ」
「いないの!」
 断固としていいきって、アニーは浴室へ飛び込んだ。勢いよく閉めて、ガチャリと鍵をかける。
 いわれるまでもない。あの几帳面なノックが、ハンスによるものだなんて、もちろん気づいている。
 けれど、だからこそ、問題なのだ。

「あー……アニーは――えーと、風呂だ」
 扉の開く音、それからぺぺの声。ハンスの声は聞こえてこない。アニーはびたりとドアに耳をつけて、一音だって逃すものかと息を潜める。
「――ああ、わかった、伝えとく」
 結局、ぺぺの声しか届かなかった。もう一度、扉の閉まる音が続く。
 たっぷり十秒待って、アニーは浴室から出た。
 先ほどまでと同じように図鑑を見ているぺぺが、呆れたように声をかけてくる。
「手の空いてるときに、本部まで来て欲しいってさ。アニー、あからさまにハンス避けてるだろ。友達なくすぞー」
「…………うぅ」
 アニーは開けたままのドアにすがるように、額を押しつけた。
 どうやら、年貢の納め時、というやつらしい。

 リヒターゼンでちょっとした騒ぎになった『惚れ薬事件』以降、アニーはハンスを避けていた。
 合わせる顔がないのだ。ハンスにちゃんと謝らなければならないとわかってはいるものの、実践できそうにもなかった。
 薬の効果が切れてから数時間は混乱していた記憶が、いまではいやにハッキリとしている。忘れていたのが嘘のように明瞭で、少し思い出しただけで赤面してしまうほどだ。
 いったい、ハンスはどう思っているのだろう――本人に聞かなくてはわかるはずのない疑問が、ぐるぐると回る。

「お、アニー。最近、買い出しにも行ってねえだろ。なんもねーぞ」
 棚を開けたぺぺの、不機嫌そうな声。そちらを見やれば、食材を入れておくはずの棚は確かに空っぽだ。
「じゃ、買ってくるから!」
 これ幸いとばかりに、アニーはアトリエを飛び出した。アトリエにこもってばかりでは、悶々と考えてしまって息が詰まる。



 小麦粉とたまごと、岩さとう等、たっぷりの食材の入った紙袋を抱えて、アニーはふらふらと雑貨屋を出た。
 リーズがいれば話を聞いてもらおうと思ったのだが、あいにくの不在だ。
「はあ……」
 ため息が漏れる。
 本当なら、本部へ行って、ハンスの用事とやらを聞かなくてはならない。
 ハンスは自分の担当なのだから、避け続けることなど不可能だということもわかっている。
 けれど、どうしても。
 心の準備が。
「もうダメだ……」

「何がもうダメなんだ?」
 不意に声がして、同時にヒョイと紙袋が持ち上げられた。
「ハン──!」
 その声が誰なのか、アニーにはすぐにわかった。なにしろ、ここのところ彼のことばかりを考えていたのだから。
 慌てて、紙袋を奪い返した。
 顔にくっつけるようにして持ち、がっちりガードする。きっと真っ赤になっている。そんな姿を見られるわけにはいかない。
「……何のマネだ、それは」
 呆れたような、ハンスの声。
 久しぶりに聞く声だ。あの日の記憶が瞬時に蘇り、アニーはますますどうすればいいのかわからなくなる。

 じりじりと、アニーは後退した。
「な、なんでもないですよ、ハンスさん」
「絵に描いたように挙動不審だが」
「そ、そうかなああ」
 挙動不審なことは百も承知だ。ハンスから見た自分は、さしずめ紙袋人間。
 それでも、どうしても、アニーは態度を改めるわけにはいかなかった。
「──ぺぺから聞かなかったのか? 本部に……まあ、資料は持ってきているから、ここで伝えればいいことだが」
「うんうん、行くよ。ええと……明日か明後日ぐらいに」
「いまは、時間がないのか?」
 ぐ、とアニーは言葉に詰まった。ハンスの声は、怒っているときのそれではない。むしろ、忙しいところを呼び止めてしまったのなら申し訳ない、といったニュアンスがにじみ出ていて、いたたまれなくなる。
「い、忙しいわけじゃないけど」
 正直に答えてしまった。
 ハンスの顔は見えない。それだけに、息の詰まるような沈黙が続く。

「……アニー」
 トーンの低い、どこか疲れたような、しかし真剣な声がかけられた。
「いったい、どうしたんだ。このところ、僕のことを避けているだろう。僕が何かしてしまったのなら謝るが──」
「あ、謝らなくちゃいけないのはこっちだよ!」
 思わず、叫んだ。
 紙袋を下ろしそうになって、慌てて顔の位置まで持ち上げる。やはり、合わせる顔がない。こうして向かい合っていても、尚。
「どういう意味だ。君は僕の知らないうちに、僕に何かしたのか?」
 アニーは息をのむ。
 謝るならいまだ。いましかいない。
 それでも動けずにいると、紙袋を掴まれた。
「とにかく、話すときはちゃんと目を見て──」
「だ、だめだったら、今日は調子が悪いから!」
 アニーは必死で紙袋を引いた。いっそ手を離して、回れ右をして走り去ってしまいたい。それが何の解決にもならないことぐらいわかっていたが、それでも得体の知れない恐怖と明らかな羞恥が襲いかかってくる。
「わけのわからないことを……!」
 とうとう、負けた。
 紙袋はハンスに持って行かれ、顔が露出した。

 耳まで熱い。
 ハンスの顔を見てしまえば、なおさら、赤面してしまった。
「──!」
 ハンスの顔が驚きに変わる。しかしそれ以上見てられず、ビシ、っとアニーは両の手のひらを顔の前に突き出した。
「ゴメン、ハンス!」
 うつむいて、告げた。顔を見ることができなくても、やはりいうべきことはいわなければ。
「な、何が」
 ハンスがどもる。しかしそこから漂う動揺になど気づく余裕はなく、アニーはまくしたてた。
「この前、あたし、惚れ薬飲んで、その……ハンスにイロイロ迷惑かけて! なんかもうすごく恥ずかしくて──あたし、ハンスに好……」
「うわああ! わ、わかった! わかったからその話はもういい!」
 慌てたハンスの声に、あれ、と思う。
 顔を上げ、手の甲の隙間から、恐る恐るハンスの顔を見た。
 
 真っ赤になっている。
 きっと、いまの自分と同じぐらいに。
「……ハンス?」
「お、覚えていないんじゃなかったのか?」
「覚えてるよ。夜にはぜんぶ思い出した」
「…………」
 ハンスが目を逸らす。
 アニーはおずおずと両手を下ろすと、ハンスの横顔をじぃっと見た。
 もしかして。
 恥ずかしくてもやもやしている、この感情は、自分だけではなくて──
「──好きとかいわれて、困ったでしょ?」
「い、いや……」
 ハンスの顔がますます赤くなる。アニーは小首をかしげた。
「あのとき、寮まで行ってシャワーまで借りて、あたしったら泣きじゃくってわがままいって、ハンスがあたしを……」
「アニー! その話はもうやめよう! ぼ、僕もあのときは、ちょっと……その……」
 アニーは目を見開いた。
 その姿に、ひらめいた。ハンスの様子がおかしい理由。
「ハンスにも、薬の影響があったってこと?」
「そ──!」
 ハンスの動きが止まる。
 何かを考えるような、長い沈黙。
「──……そう、なんだ。実は薬を少々接種してしまっていて。だからお互いさまだ。その話は、その……もう、やめにしないか」
「ハンスー!」
 アニーは歓声をあげた。思わずハンスに飛びついて、手を取ってブンブンと上下に振る。その拍子に紙袋が落ちたが、そんなことはどうでもよかった。数日ぶりに晴れ渡った気持ちのままに、満開の笑顔になる。
「良かった! あたしこのまま、もうずーっとハンスに合わせる顔がないのかと思ったよ。お互いさまかあ。うんうん、忘れよう!」
「あ、ああ……」

「『ハンスがあたしを』──どうしたのかな?」
 不意に、声がした。
 紙袋を拾い上げて、いつの間にかいたらしいリーズが、ニヤニヤと笑っていた。
「あ、リーズ姉さん」
「い、いつからそこに──!」
「最初から。ここ、どこかわかってる?」
 いわれて初めて、アニーは状況に気づいた。雑貨屋の入り口の、すぐ前だ。入ろうとしていた客が逡巡している。
 アニーとハンスは、慌てて場所を移動した。ハンスは律儀に謝っている。
「ひょっとして、すっごく迷惑だった?」
 ばつの悪い思いでアニーが頬を掻く。しかし、リーズは首を振った。大変いい笑顔で。
「ううん。むしろもっと聞きたい。『ハンスがあたしを』どうしたの、アニー?」
「ちょ……、そ、その話はもう!」
 ハンスが話を切ろうとする。アニーは今回ばかりはハンスに荷担するつもりで、うなずいた。
「いえないよ、リーズ姉さんでも。あの薬効いてるときって、すっっっごい恥ずかしいことしちゃうんだよ! もうこれは、あたしとハンスの胸の奥底にしまって……じゃないや、もう忘れることにしたの」
「ふうん」
 うなずいて、リーズがハンスを見る。標的を変えたらしい。
「薬が効いていたハンス君、すっっっごい恥ずかしいこと、したんだぁ」
「──どうか!」
 ハンスが両手を合わせた。リーズを拝む。
 アニーにはわけがわからず、なにやら必死なハンスと、余裕たっぷりのリーズとを交互に見た。いつのまにか、尊敬すべき姉さんは神にまで昇格したのだろうか。
「じゃ、貸し一つってことで。──それじゃあね、お二人さん」
 意味深な言葉を残し、リーズが雑貨屋へと入っていく。

 残された二人に、妙な沈黙。
「……貸し、って?」
 ゴホン、とハンスは咳払いした。どうやら聞いてはいけないことだったらしい。あからさまに話題を変えてくる。
「と、とにかく、場所を変えないか。本部かアトリエか……まだ伝達事項が」
 そんなことはすっかり忘れていた。ああ、とアニーは手を打つ。
「そうだったね。じゃあアトリエに来て! お茶出すよー。お菓子もあるんだ」
「ああ、すまない」
 そうして二人並んで、アトリエへと歩き出した。



 過ぎ去った雑貨屋から、リーズが顔を出す。
 二人の後ろ姿を眺め、
「あの状況で、進展なしか……」
 舌を鳴らして、顔を引っ込めた。
 





────────────
リーズのつぶやきは私の代弁で(笑
そんな状況でも! この展開ということで! ごめんハンス!!
ドキドキするアニーは書いてて楽しかったです。ああ、この子ちゃんとオトメだったのね、みたいな。
オトメとオトメの恋模様。

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  Name : 光太朗。
  性別女、またの名を光太朗子。
  『アニーのアトリエ』ハマり中。

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