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『きみしかみえない』 1

こっそり充実させていきたいと思っている、王道ネタ第三段。
第一弾は「酔っぱらいネタ」、第二弾は「風邪ネタ」でした。第三弾は、「惚れ薬ネタ」!!
書きたいと思っていた話と、柿トロさまからいただいたネタとをミックスさせて──なんですが、長くなってしまったので、二つに分けます。

「きみしかみえない」は、エリアトの攻略本で復習。
懐かしい、エリアト。






*****





『きみしかみえない』 1


「アニー、先日の課題の件だが――」
 アトリエに入った瞬間、アニーと目が合った。
 それだけなら大したことはないのだが、じぃっと、熱を帯びた瞳で見つめられ、ハンスは何をいおうとしていたのかすっかり忘れてしまった。もしかして、自分の顔に何かついているのだろうか、と的外れなことを考える。
「――アニー?」
 いつもと違う様子を不審に思い、名を呼ぶ。
「うん」
 アニーがこたえた。そんな返事が欲しかったわけではないので、ハンスはますます奇妙に思う。
 アニーは、ふらふらとよろめくように、一歩、二歩と近づいてきた。ハンスの目の前まで来て立ち止まり、見上げてくる。

 明らかにふつうではない。熱でもあるのか、酒でも飲んだのか――ハンスは眉をひそめる。ぺぺの姿はなく、だれかに聞くこともできない。
「どうかしたのか? なんだか、様子が――」
「ハンス」
 遮るように、声。 
 ハンスは言葉を飲み込んだ。黙らせる何かがあった。
 アニーはゆっくりと、両手をあげた。かすかにためらうような仕草を見せ、ハンスの背に手を回す。
 そのまま、ぎゅっと、抱きしめた。
 ハンスが息を止める。思考が停止してしまう。
 アニーはハンスを見上げた。
「すき」
「――――……! ……!?」
 ハンスは手にしていた書類を、すべて落としてしまった。
 金縛りにあったかのように、動けなくなる。
 アニーはしがみついた状態のまま、離れない。それどころかいっそう手に力を込め、ハンスの胸に顔をうずめてくる。

「アニー! さっきの薬だけど……――」
 唐突に、アトリエの戸が乱暴に開けられた。ハンスはとっさに、武器を突きつけられたかのように両手を挙げる。やましいことは何も、という意思表示。
 よほど急いで来たのか、カイルは肩で息をしていた。
「――うわ! こ、これは……ひょっとして、手遅れ?」
 ハンスとアニーを見て、そんな一言。
 ピンときた。ハンスは両手を挙げたまま、ジロリとカイルを見る。
「これは、カイルの仕業か?」
「仕業っていうかなんていうか……あははー。じゃああとはお二人で、ってわけにも、いかないよねー」
「あたりまえだ! 説明してくれ!」
 カイルは肩をすくめて、アトリエに入ってきた。ハンスにしがみつくアニーを、文字通り力付くで引き剥がす。
「あ! ハンスー!」
 名残惜しそうに自分を見上げてくるアニーからは、思わず目をそらした。
「説明するけど……ぺぺにも聞いてもらった方がいいかな」
 カイルの言葉で、ハンスは改めてアトリエを見回す。やはり、ぺぺはいない。
 ここにいないということはショップだろう。急いで、隣へ続く扉を開けた。


   *


「これは……もしかして、『きみしかみえない』? どうして、こんなもの」
 アトリエには、ハンスとアニー、カイルとぺぺに加えて、錬金術師代表としてリーズも来ていた。
 説明を聞き、薬ビンを渡されたリーズが、眉をひそめる。
「リーズ、知っているのかい?」
「名前はね。ものすごく強力な惚れ薬。人魚の鱗を元にしてるって噂だけど……――そういうのは暗黙の了解で、いまではタブーなの。あたしも見るのは初めて。その行商人も、知らずに売ったんでしょうね。本当なら、相当の値段するはずだもん」
「ニンゲンってそういうの、好きだよなー」
 他人事のようにぺぺがつぶやく。ああ大好きさ、とカイルは反省の色なくこたえた。
「知ってたら、こんなふうにアニーに預けたりはしなかったんだけど……ほらイロイロ使い道あるし……じゃない、ゴホンッ、ええと、大変反省しております」
 アニー以外の全員がカイルをにらみ、カイルは腰を九十度曲げて、頭を下げた。アニーは、ちゃっかりハンスの隣に座って、ぴったりとくっついている。

 いきさつは単純なものだった。
 カイルが旅の行商人からタダ同然で買った、謎の薬。古いビンには破れたラベルが残っていて、かろうじて読めるのは、「みえない」の文字のみ。
 姿が見えなくなる薬か、意図したものを見えなくする薬か――ともかくもおもしろそうだと、解析を依頼して、ビンごとアニーに預けたのだという。
 ところが、町で、やはり同じ薬を買った人間が、あれは惚れ薬だったと騒いでいるのを耳にした。慌ててアトリエに戻ってみれば、すでに手遅れ。
 アニーが間違って飲んだのか、意図して飲んだのか――本人に聞いても明確な答えは返ってこないが、薬が減っていること、なによりもいまのアニーの状況から、飲んでしまったことは間違いないだろう。

「自業自得ってやつだな。そんな得体の知れない薬、とりあえず飲んでみるなんて、錬金術師失格だ」
 幸せそうにハンスにひっつくアニーに、ぺぺが冷たい言葉を投げる。
 ハンスは慌てた。
「それはそうかも知れないが……ペペ、効果を解く方法はないのか? このままでは……い、いろいろと問題が」
「ハンス~」
 アニーがごろごろとハンスにすり寄る。身を引くようにしながら、非常に複雑な心境でハンスは続けた。
「このままというわけにも、いかないだろう?」
「いやあ、いいんじゃないかな、なんだかほら、幸せそうだし」
「うん、あたしたちのことは気にしないでさ。いちゃいちゃしなよ」
「――僕は真剣に困っているんだ!」
 からかう二人に、本気で怒る。カイルは心外そうに拗ねたフリをしたが、リーズはゴメンゴメン、と苦笑した。

「まあ、薬が存在するってことは、解毒剤もあるはずよ。ねえ、ペペ?」
「ちょっと調合に時間はかかるけどな。しかたねーから、オイラとリーズで作ってやる」
「そ、そうか……!」
 ハンスの表情が、ぱっと明るくなる。 
「でもあれだね、アニーが飲んじゃったのは災難だけど、最初に見たのがハンスで良かったよ。たとえば僕やキルベルトだったりしたら――そう、それはとても、危険だったかもしれない」
 眼鏡を人差し指で直しつつ、無駄に真剣な声でカイルはいった。人目にさらされているというのに、かまわずハンスに甘えるアニーを見る。
「こんなふうにされたらさー。その気がなくてもつい、ってなるじゃないか。その点、ハンスは真面目だから」
「ハンスだから問題だって話もあるけどねー」
 ニヤニヤと、リーズが付け加えた。もう声をあげて怒る気にもなれず、ハンスは憮然として唇を曲げる。

「少なくとも一日かかる。今日は錬金術の修行は休みだな。アニー、元に戻ったら徹底的にしごいてやるからな……!」
「できることは協力するよ。――ハンス、アニーはたぶんすごく不安定な状態だから、優しくしてあげてね。どこまでもついてくるだろうし、お仕事は休んだ方が無難かも」
 さらりといわれ、ハンスは絶句した。
 それはつまり、このままの状態で一日を過ごせということか――聞いてみたいが、聞くまでもない。片時も離れない様子からすれば、本部に戻ったところで仕事にならないのは明白だ。
「僕にも、何かできることあるかな?」
「できればその行商人、とっつかまえてきて。薬を誰に売ったのか……それに、まだ持ってるようなら、騒ぎになっちゃうかもしれないから」
「りょーかい」
 ビシリ、とカイルが敬礼し、さっさとアトリエから出ていく。
 ペペも、すでに図鑑の物色に移っていた。そこにリーズも加わる。
 どうやら、ここにいても邪魔になりそうだ――ハンスは嘆息して、腰を上げた。寄りかかってきていたアニーも、あたりまえのように一緒に立ち上がる。
「ハーンス」
 名を呼ばれ視線を落とすと、アニーがゆるみまくった表情をしていた。
「まったく……」
 肩を落として、絡みついてきている腕をどうにかほどくと、ハンスもアトリエを出た。


  *


「ねえハンス、どこ行くの? あたしも行くよー」
 とてとてと、アニーがすぐに追いついてくる。ハンスは足を早めたが、それで諦めるはずもない。
 仕事を休むなら休むと、本部に一言いわなければならないだろう──ハンスの足は、使命感だけで動いていた。うしろからの声は、できるだけ聞こえないふりをする。
「ねえねえ」
 しかし、しつこく、アニーはついてきた。
 諦めるつもりなどないのだろう。

「アニー」
 あと少しで本部というところで立ち止まり、振り向いた。
 アニーが顔を輝かせる。満面の笑顔で、ハンスのすぐ目の前まで駆け寄ってきた。尻尾があれば振っていそうだ。
「うん、なになに?」
 期待全開の目で見つめられ、ハンスはためらう。
 道の真ん中だったことを思い出し、とりあえず端に寄った。明け方までの雨のせいで、日陰には水たまりができている。避けるようにして、アニーの手を引いた。
「アニー、さっきの話を聞いていただろう。君はおかしな薬を飲んだんだ。僕のことを……その、す、好きだと思う感情は、幻だ。わかるな?」
「聞いてたけど」
 アニーの眉が下がった。うつむいて、右手を差し出す。
 ハンスの服の裾を、きゅっとつかんだ。
「でも……いっしょにいたいよ」
「────!」
 クリティカルヒットだった。よろめいて、ハンスは民家の壁に手をつくと、どうにか気を落ち着けた。大きく深呼吸。
 この状態のアニーと丸一日一緒にいるというのは、あまりにも危険だった。カイルのいうように、相手が自分でまだ良かったとは思うものの──いったい何の修行だ、と冷や汗が垂れる。

「ねえ、じゃましないから、いっしょにいてもいい?」
 無自覚とはいえ、完璧な上目遣いを披露され、ハンスの決心が揺らぐ。強く、断固として、拒否──というつもりでいたのだが。
「ま、まあ、邪魔しないなら……」
 あっさり折れた。意志薄弱。
 アニーは全身で喜びを表現すると、文字通り飛び上がった。
「ハンス、ありがとう!」
 そのまま抱きつこうと、両手を広げてくる。
「────!」
 咄嗟に、ハンスは避けた。
 こんなところでハグはまずい、と、理性が働いた。
 避けられるとは予想していなかったのだろう。支えになるはずだったものがなくなり、アニーがつんのめる。
「わわ!」
「アニー!」
 掴もうとしたのが、逆効果だった。
 二人はそろってバランスを崩し──

 ──倒れる先には、泥の水たまり。
 バシャーンと、なすすべもなく、二人は泥にまみれた。
 



────────────
続きます。
次は、ハンスのお部屋編。

『きみしかみえない』 2 は、コチラ

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  Name : 光太朗。
  性別女、またの名を光太朗子。
  『アニーのアトリエ』ハマり中。

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