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『ほわいとでー』

まさかのホワイトデーです。
ブログ内では一年経ってしまいましたが、一応『ばれんたいん』の一ヶ月後ということで……!





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『ほわいとでー』


 今年は男の子からアグレッシブに。
 チョコをもらったあなたも。
 チョコをもらっていないあなたも。
 ちょこっと気持ち、伝えてみませんか?
 

「アグレッシブ……」
 洋菓子店の前で、ハンスは眉根を寄せた。
 積極的に、といいたいのだろうが、どちらかというと攻撃的という意味だったと記憶している。とはいえ、草食系男子がどうのといわれているこの時代、それぐらいでちょうど良いのかもしれない。
 ついでに、チョコとちょこっとをひっかけた、つっこみようのないダジャレ。考えたのはおそらく、この店のオーナー──アニー・アイレンベルクだろう。
 店内は大変なにぎわいを見せていた。ふだんは女性客が大半を占めているが、今日ばかりは男性ばかりだ。今日はホワイトデー。売り上げを伸ばそうというアニーの戦略で、セラ島ではちょっとしたホワイトデーブームが起こっている。当日の駆け込みで、店は大盛況だ。
 ホワイトデーといえば、バレンタインデーのお返しをする日。だがアニーは、声を大にして──むしろ怒気をふんだんに込めて──、その風潮を否とした。
 もらえるものならもっともらいたい。男の子ばっかりずるい。
 と、いうことらしい。
 アニーは忙しくかけずり回っているので、あまり詳しくは聞いていない。だが、洋菓子店の看板を見るだけで、だいたいのことはわかる。このわかりやすさ、取っつきやすさも、彼女の戦略が成功している理由だろう。
 お返しとしてではなく、思いを伝える手段として、男性からお菓子を。
 ハンスは、生唾を飲み込んだ。
 これはチャンスだ。
「お、なんだなんだこんなとこつっ立って。売り切れちまうぞー」
 ハンスの隣を、大剣を背負った男が通り過ぎた。
「あ、ああ、いや……」
 声を返そうとするが、キルベルトは特に話し込む気はなかったようだ。さっさと店内に入っていってしまう。
「おや、こんなところで珍しい。入っちゃうのかい? 買っちゃうのかい?」
 次に異国の機械師がやってくる。眼鏡の奥の瞳がこれでもかと輝いている。
「う、その……」
「急がないと売り切れるよ」
 むしろ自分にいった言葉だったらしい。カイルは急いで店に入っていった。
「思ったより、遠かったぜ……!」
 ゴーグルの少年は、ハンスには気づかずに店に直行する。身体中に木の葉や土が付着していた。ビュウは己の持つそのスキルで、どうやら数日かけてやって来たらしい。
「…………」
 ハンスは、かえって動けなくなっていた。
 騎士団長やダニエルまでやって来たのを見たときには、思わず物陰に隠れてしまった。
 なんという大ブーム。
 彼らは一体、だれに気持ちを伝えるつもりなのだろうか。むしろそっちが気になってくる。
 しかし、いつまでもこうしているわけにはいかなかった。
 渡すか渡さないかはともかく、まずは買うか買わないか──とりあえずハードルを下げて、何度か深呼吸して、店内に向かって進む。右手と右足が同時に出る。
 店内はごった返していて、自分がなにを買おうと気に留められることはなさそうだった。ハンスは迅速に、かつこっそりと、一番の売れ筋だと紹介されたセットを一つ、購入する。
 ココアとマシュマロ、ホワイトクッキーのセットだ。過剰ではないラッピングは、確かに男性でも手が出しやすい。
 あとは、逃げるように、店から出て行く。渡すのならば、やはり今日中に。彼女は忙しいだろうから、今夜──アトリエに行ってみようと、心に誓う。


   *


 渡すのは簡単だ──ハンスは、自分にいいきかせた。
 バレンタインデーには、アニーからチョコをもらっている。もちろん、愛を伝える類のものではなかったが、ホワイトデーにお返しを渡す理由は充分だ。
 加えて、手にしているのはアニープロデュースの菓子セット。担当委員としての立場も有利に働くだろう。
「……いや、ちがう!」
 ハンスは、己の思考に大きく首を振った。それではいけない。それでは、いままでとなにも変わらない。
 気持ちを、伝えなければならない。
 だからこそ、わざわざ、あの店で買ったのだ。
 思いを伝える、菓子を。
「アニー!」
 ハンスはアトリエの扉を開けた。うっかりノックを忘れたが、しかし男らしくどーんと。 アトリエでは、アニーとペペがきょとんとしてこちらを見ていた。予想通り、日の暮れたいまは忙しさも抜け、休息を取っているところらしい。
「あれー、珍しいね、ハンス。こんな時間にノックもしないで。なにかあったの? 事件?」
「顔こわばってるぞー」
 口々に指摘され、ごほんと咳払いをする。逡巡して、扉を閉めかけた。
「すまない、やり直そう」
「ええっ、なんで! いいよ、やり直さなくて!」
 しかし止められる。ペペが呆れたように肩をすくめた。
「ちょうど良かった。このバカ、なんとかしてやってくれ。確かにここんとこ頑張ってたけど、その代わり今後一ヶ月は休むとかいい出しやがった」
「冗談だよ、冗談ー。明日一日でいいからさー。ゆっくり寝たいだけじゃんー。ハンスからもいってやって、いってやって!」
 口々にいわれるが、しかし返答が思いつかず、ハンスは口を閉ざした。
 体内に溜めてきたいうべき言葉が、消えてしまわないように留めるので精一杯だ。いま、違う話題を振らないでいただきたい。
 そもそも、どうして思いつかなかったのか、ペペが一緒にいるというのは想定外だった。考えてみればあたりまえのことだが、やはり緊張しているのか、思考がおかしい。
 黙ったままでいると、アニーとペペが顔を見合わせた。
「どうしたの?」
 う、と空気が漏れる。この状況ではいえない。いいにくい。しかし。
 決めたのだ。
 このチャンスを、ものにしなくては。
「ア、ア、ア、アニー!」
 思ったより、声がうわずった。しかもどもった。
 アニーは思いきり眉をひそめる。
「え、なに」
 警戒している。ペペは露骨に身を引いた。
「ハンス、おかしいぞ」
「おかしくなん……いや、そう、お菓子だ」
 絶好のパスをもらった気分だった。お菓子というキーワードで、背後に隠していた包みを一気に差し出す。勢いをつけて。
「アニー、これを君に」
 いった。
 確かに、いった。
 アニーが目を見開く。
「おお……」
 ペペが感嘆の声を漏らした。が、ペペは視界から排除して、ハンスはアニーの反応をじっと待つ。
「ハンス……」
 アニーの目が、うるんだ。ハンスはぎょっとする。泣かれるとは思わなかった。しかし泣かれるということは、まさか。期待が膨らんでいく。
「あたし、嬉しいよ……!」
 アニーはそういって、包みを受け取る。ハンスの脳内で、鐘がなった。リンゴン。ついに、ついに、この日が。
「あたしも、気持ちは、同じだよ」
「アニー……!」
 手が出そうになるが、さすがにこの状況下でその勇気はない。ハンスは顔を赤らめつつ、少し目線を逸らす。
「そ、それはよかった」
 ペペが椅子から降りる。気を利かせてくれたのかと思ったが、彼は小さな身体でポットを用意した。マグカップを二つ、並べる。
「良かったな、アニー」
 なにやら声が優しい。アニーは笑ってうなずいて、ハンスから受け取ったつつみを開ける。なかからココアを取り出すと、いそいそと作り出した。
「ほら、一緒に飲んでけ」
 うながされ、テーブルにつく。アニーは上機嫌でココアを作り、ホワイトクッキーを皿に盛ると、マシュマロの袋をハンスに手渡した。
「これはね、こうやって、一緒にお茶するのが正しい使用法なんだよ」
「使用法?」
 あれ、と思いつつも、受け取る。アニーがそうするので、ハンスもココアにマシュマロを浮かべた。
 スプーンで、かき混ぜる。
 マシュマロが溶け出し、そこからふわりと、淡いピンク色の紙のようなものが浮かび上がった。
 水分を吸うわけでもないそれは、おそらく紙ではないのだろう。アニーが錬金術で作ったものに違いない。ココアの上に登場した、ハートをかたどったそれに、くっきりと、文字が描かれている。
 ハンスは、すべてを理解した。
「えへへ、なんか、照れるよね。これからもよろしくね、ハンス」
「…………あ、ああ」
 落胆したのは一瞬だった。
 笑みがこぼれる。
 これはこれで良かったのかも知れないと、胸の奥があたたかくなる。
 ふっと、緊張が抜けた。
「これからもよろしく、アニー」


 Thanks from bottom of my heart.
 あなたの存在に、心からの感謝を──


 ココアの上で小さなハートが、笑うように静かに揺れた。 
 
 
  


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久しぶりのハンアニでした。
読んでいただきありがとうございました><


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  Name : 光太朗。
  性別女、またの名を光太朗子。
  『アニーのアトリエ』ハマり中。

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