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『おとぎドリンク』

DSアトリエwebアンソロ参加作、そのに。
『アニーのアトリエ』ハン→アニです。

初心にかえって(?)、アニーには寝てもらいました。





******





『おとぎドリンク』


「うう、ダメだ、もうダメだ……」
 時刻を確かめる気にもならない。暗くなってからどれぐらいの時間が経ったのだろう。少なくとも、日付が変わっているのは間違いない。
 アニーはふらふらと椅子に倒れ込んだ。ベッドに行ってしまったのでは、寝てしまうのは目に見えている。それでは、課題の提出が間に合わなくなってしまう。
「なんでもいいから、クスリー」
 どうにか立ち上がり、棚をあさった。アルテナの水、鉄ドリンク、ついでに生命のサプリ。助けになりそうなものを片っ端から胃に流し込む。
 ふと、見たことのないビンが目に留まった。
 しかし、すでに思考は追いつかない。
「ペペのかな。これも飲んじゃえ」
 勢いのままに、手に取った。



   *



 朝一番で本部に顔を出し、最低限の仕事だけ終えると、すぐに出る。ハンスには行くべき場所があった。担当委員として、課題未提出という結末だけはなんとしても回避せねばならない。
 すでに、ほとんどの錬金術師が提出を終えている。アニーがなにもしていないわけではないだろうが──そう信じたいが──いまから提出となると、よほどの品質が求められる。
 ハンスはほとんど小走りでアトリエまでたどり着くと、一度気を落ち着けて、ノックをした。
 返事がない。
 まさか、まだ寝ているのだろうか。
「アニー? いないのか?」
 いないわけはないだろうと思いながらも、声を投げる。さすがに、勝手に開けて入るのはためらわれた。
「アニー?」
 繰り返すと、返事の代わりに、聞き慣れた怒号が飛んできた。
「くぉらー! 起きろ、アニー!」
 ハンスは眉をひそめ、それからため息を吐き出す。もう一度ノックをし、失礼すると一言そえて、扉を開けた。
 アトリエ内は、まったく予想通りの惨状だった。幸せそうな顔をして眠るアニーと、たたき起こそうと奮闘するペペ。
 いつもと違うのは、彼女が錬金術師スタイルのまま、テーブルに伏して寝ているということだろう。ということは、さすがにのんきに眠っている状態というわけではないらしい。
「課題は……できていない、な」
 聞くだけ無駄とも思われたが、ハンスはそうつぶやいた。ペペは眉をつり上げ、不機嫌そうにうなずく。
「ここんとこ珍しくがんばってたから、今朝はもうちょっと寝かせてやるかと思ったんだけどな。さすがに寝すぎだっ、まだ起きやがらねえ」
 毒づきながら、抱えた品物を脇に置く。ショップの整理でもしていたのだろう。
「がんばっていた、ということなら、無理に起こすのも気が引けるが……しかし、さすがにまだ提出できないとなるとな」
「うーん。それにしても、ちょっと様子が変だな」
 ペペは、ひょいと椅子の上に飛び乗った。アニーの顔をのぞき込む。むにゃむにゃと、平和そのものの顔をして、幸せそうに眠っている。
 突然、ペペはアニーの瞼を押し開けた。まじまじと、眼球をのぞき込んでいる。
「ぺ、ペペ?」
 さすがに、ハンスは後込みした。起こすべきだとは思うが、その方法はどうなのだろう。
 しかし、そこまでされても、アニーが起きる様子はない。
「──まさか」
 つぶやかれた言葉に、ハンスはドキリとする。漠然としたイヤな予感。
「どうかしたのか?」
 ペペは答えずに、物の散乱したテーブルの上を素早く確認した。それから飛び降りて、床の上を探し回る。
「……あった」
 小さなビンを手に、絶望的な声。ビンはふたが開けられ、すでに空っぽになっていることが見て取れる。
「なにがあったんだ?」
「アニーのやつ、未知のクスリを飲みやがった。最悪、目を覚まさないかも知れねえ」
 ペペの声は真剣で、冗談の類ではないことはすぐにわかった。
 ハンスは、目の前が真っ暗になるのを感じた。




 アニーが飲んだクスリは、『おとぎドリンク』という名前だった。ラベルに記された名称以外はすべて不明、ペペが妖精さんの特殊ルートで購入し、成分を解析するつもりだったらしい。
「うーん……悔しいけど、あたしも聞いたことないわ。中身が残ってれば、まだなんとかなったかも知れないけど」
 アトリエには、ペペに呼ばれたリーズと、呼んでもいないのにくつろぎにやってきたカイルとキルベルト、ジェリアがいた。リーズは空のビンを置き、残念そうに首を振る。
「これ、もう一つ手に入らないの?」
「手に入るとして、いつになるか……残ってる数滴で、なんとかなるかもしれねえけどな」
 リーズとペペが、そろって真剣な顔でうなり出す。
「そんなに、深刻な事態なのか?」
 いてもたってもいられず、ハンスは思わずそう問いを投げていた。ペペが困ったように肩をすくめる。
「未知なんだよ、良くも悪くも。世界は広いからな、ここから遠く離れた場所じゃあたりまえに作られてるのに、オイラたちは存在も知らないってのはよくある話だ」
「逆に、あたしたちにとってなじみあるものが、どっかの国ではナニソレ? って感じだったりね」
 ということは、解毒剤が存在しないというわけではないのだろう。ハンスはほっとして、眠りこけるアニーを見た。
 いまではベッドにまで運ばれたアニーは、どこまでも幸せそうな顔をして眠り続けている。どうせ、玉の輿の夢でも見ているのだろう。
「ねー、おとぎドリンクの『おとぎ』って、おとぎ話の『おとぎ』でしょ? なら、簡単だよー」
 のんびりとクッキーをつまみながら、ジェリアが脳天気な声をあげた。
「簡単?」
 ペペが目を見張る。
「おとぎ話でお姫様が目を覚まさないといえば、覚ます方法は一つでしょー!」
「おおっ、なるほど! それは確かにその通りだね。うん、なかなかいい薬じゃないか!」
 カイルまでもが便乗し、なにごとかに気づいたリーズが手を打った。わけのわからない面々は、顔を見合わせる。
「すまない、もうちょっとわかりやすく……」
 ハンスが声をあげる。ジェリアとカイルは、ごく楽しそうにニコリと──眼鏡の機械師はニヤリであったが──笑い合った。
「目覚めの、ちゅー」
「キッス、だね」
 声が、重なった。
 アトリエ内がしんとする。
「あのなあ……そんなバカな話が……」
 あきれ顔で肩をすくめるペペを、リーズがものすごい勢いで制した。
「うん! それはあるかもね! なんでもやってもないとわからないし! やってみて違ったなら違ったでまた考えればいいわけだし! ここはキスするしかないでしょ、王子様が!」
 恐ろしいばかりの剣幕だ。しかし、とハンスが口を挟もうとするが、その隙がまったくない。
「王子様っつっても……」
「そこは、本物の王子じゃなくても、たとえばこのオレさまでもいいわけだろ? しょーがねえなあ、アニーのためだ、ここはオレが一肌も二肌も脱いでやるかっ」
 ペペがつっこもうとするが、それもキルベルトの声に阻まれる。キルベルトはなぜか自信たっぷりに、肩をコキコキと鳴らした。
「やってやろうじゃねえか、チッスの一つや二つ!」
「ボクだって協力は惜しまないさ! 機械技術の粋を結集させたアツイ接吻をお見せしよう!」
「えー、でも、アニーが愛してる人じゃないとダメなんじゃないの? あれ、逆? アニーのことを、愛してる人? じゃなくて運命の人?」
「なんでもいいわ、この際。当たって砕けろよ」
 リーズの目が据わっている。リーズは、キルベルトと、カイルとハンスと、それからついでにペペを、じっと見た。
「順番は、じゃんけんでいいかしら」
「ちょ、ちょっと、待った!」
 思わず、ハンスは声をあげていた。さすがにそれは、もろもろ引っかかるところが多すぎた。
「あらなぁに、ハンス君?」
 リーズの問い返しにあからさまな何かを感じつつ、ごほんと咳払い。
「その方法で確定しているというならまだしも……とりあえずで、き、キスというのは、その……どうなんだろうか、人として」
 正直な気持ちだ。それでは、あまりにアニーが気の毒だという気がした。自業自得とはいえ。
「でも、目を覚まさないよりは、覚ました方が、ねえ? 減るもんじゃないし」
「そ、そういうことではなくて!」
「なにか問題でもあるの?」
 ストレートに聞かれてしまえば、黙るしかない。問題、といわれればありすぎるほどに、ある。しかし、それを説明することはできなかった。たとえ筒抜けであろうとも。
「……ほ、ほかの手を試してからでも遅くはないんじゃないかと、そういうことをいっているんです!」
 どうにか、声を絞り出した。ふむ、とリーズがうなずく。
「それもそうね。じゃあ、あたしは文献を漁ってみるわ」
 意外にもあっさりと、リーズが折れた。さきほどまでの熱気はどこにいったのか、ほかのメンバーも動き出す。
「オイラは、妖精さんの知り合いを当たってみるか」
「図書館で調べてみようかなー、一応」
「んじゃ、オレは試すことだけ試して……」
「ハイハイ、空気読もうかー」
 あとヨロシクね、といいのこし、リーズがアトリエから出て行く。ペペとジェリアもあとに続き、残ろうとするキルベルトの首根っこをつかんで、カイルも出て行った。
「え? いや、……あれ?」
 まさか、残されるとは思っていなかった。
 アトリエには、ぽかんとするハンスと、眠りこけるアニーの二人きり。
 嘘のような沈黙が、訪れる。
 時計の音だけが、妙に大きく響いた。秒針が六十ほど動いたところで、はっとした。アトリエの戸を開け、外を確認する。リーズたちが聞き耳を立てているかと思ったのだ。
 しかし、そこにはだれもいなかった。考え過ぎだったらしい。
 アトリエに戻って、立ちつくす。所在なく、かといってテーブルについている気にもなれず、ベッドの脇にまで進んだ。椅子を引き寄せて、腰を下ろす。
 ただ眠くて眠っているだけのように見えるアニーを、ぼんやりと見つめた。
「まったく、君は……」
 ため息が漏れる。
「みんな心配しているぞ」
 つぶやくが、もちろん返事はない。ほんのり笑みの形に唇を上げて、ひたすらに眠っている。

 ふと、なんともいえない嫌な気持ちに、支配された。
 それは、根拠のない想像だった。
 本当に、このまま目を覚まさなかったら──
 ハンス、とくったくなく自分を呼ぶあの声が、もう聞けないのだとしたら──
 そんなはずはないのだと、理性ではわかっていた。どこかには存在している薬なのだ。解毒剤がないということはないだろう。
 だが、もし。
 もしも。
「アニー」
 呼びかける。むにゃ、と返事ともつかない声。
 そっと手をのばし、いまは帽子をかぶっていない髪に触れた。柔らかい。もう少し、という欲望のままに、頬に触れる。弾力と、温かさ。本当に、眠っているだけなのだ。
「アニー、いつまで寝ているんだ」
 だがやはり、返事はなく。
 胸の奥から、衝動が湧き起こった。おとぎ話のお姫様が、目を覚ます方法は──そんなやりとりが、ほんの一瞬だけ、脳裏をよぎる。
 そういうことではない。
 ただ、抑えられない、なにか。
「はんすー」
 悪意のない、それだけにたちの悪い寝言が漏れる。
「君が悪い」
 ハンスは、身をかがめた。そっと彼女の唇に、自らのそれを寄せ──

 ──触れるか触れないかのところで、動きを止めた。
 アニーと、目が合ってしまった。
 さっきまで寝ていたはずなのに、しっかりと目を覚ましている。
 ゴーンゴーンと、響く鐘の音。
 固まった。
「あれ、ハンスだ。ふわあ、よく寝たー」
 アニーが呑気に、大きく伸びをする。
 きっかりと十二回、正午を知らせる鐘が鳴り終わり、ハンスはそのまま、ずるずるとベッドに突っ伏した。
 おとぎドリンク──漠然と、その正体がわかったような気がした。
「ハンス、どうしたの? 眠い? 寝る?」
 まったく見当違いな気遣いに、ハンスは弱々しく首を振る。
「そっとしておいてくれ……」





 カイルとキルベルトはともかく、ペペやリーズ、ジェリアも、真剣に薬について調べていたようだった。
 ハンスやアニーが無事を知らせようと街をまわったものの、彼らが再びアトリエに集合したのは、それから何時間もあとのことだ。
「まあ、あくまで、推測だけど」
 空のビンを眺めながら、リーズが目を細める。
「おとぎドリンクのおとぎ──つまりガラスの靴で有名な、あれよね、きっと。昼でも夜でも、飲んだ時点から最初の十二時きっかりまで、望んだ姿になれる……とか、そういう? 詳しいことは、まだ不明だけど。これは色々応用できそうだから、きっちり調べておかないと」
 彼女の目はすでに金儲けの色に染まっている。
「どーせアニーのことだから、これ飲んだときに眠いとか寝たいとか、考えてたんだろ」
 ペペの追い打ちに、アニーは首をかしげた。
「それ、いつも考えてるからなー。でも確かに、夜中の十二時は過ぎてたよ」
「それにしても素晴らしい薬だね! モテモテになるのも夢じゃない、と……! まあボクはいつだってモテモテなわけだけど」
「でも効果は短いんだろ?」
「最長で十二時間ってことだよね~」
 それぞれが勝手なことをいっている。ハンスはため息をついて、立ち上がった。
「アニー、とにかく、課題の提出を急いでくれ。僕はこれで失礼する。……もう、おかしな薬を飲まないようにな」
「へいへーい」
 わかっているのかいないのか、アニーが口を尖らせる。
 まさに出て行こうとするハンスの腕を、ぐいとリーズが引いた。
「な、なんですか」
 イヤな予感しかしない。リーズがニヤリと笑い、そこにジェリアとカイルも加わる。
「ところで、ちゃんと愛のキスは、したのかな?」
「寝てる間に、しちゃった? どうだった?」
「せっかく気を利かせたんだから、それぐらいは、ねえ」
「な…………っ」
 ハンスがたじろぐ。聞こえていないはずのアニーが、絶妙なタイミングで声を投げた。
「そういえばハンス、あたしが起きたとき、なんであんなに近かったの?」
「…………っ! あ、アニー! そういうことをっ」
 三人は、顔を見合わせた。
 ひたすら慌てるハンスに、何かを察したらしい。
「ちっ、未遂か」
 否定も反論も、もちろんいいわけもできず、ハンスはたじろいだままで、逃げるようにアトリエをあとにした。







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妙に長いです。そんでいつもの感じなオチでした。


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  Name : 光太朗。
  性別女、またの名を光太朗子。
  『アニーのアトリエ』ハマり中。

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