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MISSING 3

今日も更新してしまいました。時間がとれたので。
書くのって楽しいです。






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『MISSING』 3


「ショック……」
 アニーはだらりと机に突っ伏し、何度目かになるつぶやきを漏らした。先ほどまで小言をいっていたペペも、今日はもう錬金術どころではないと悟ったのだろう、いまではショップへと姿を消している。
 アトリエには、アニーと、アニーが心配だからと残ったリーズの二人だけだ。
「よしよし。ショックだよねえ。自分のことだけ忘れられるなんてね。しかもそれが、アニーをかばったせいで起こったことなんだから、なおさらね」
 困ったような顔をして、リーズがアニーの頭を撫でる。アニーは恨めしげに顔を上げた。
「リーズ姉さん、それって追い打ちだよ。フォローが欲しい、フォローが」
「フォローのしようがないでしょ。まあ、でも、ここで落ち込んでても問題は解決しないんじゃないのって、助言ぐらいならできるかな」
「解決」
 アニーは、がばりと身体を起こした。
「どうやって?」
 瞳を輝かせ、問う。リーズは自信たっぷりの笑顔を見せた。
「あたしたちは、なに? 錬金術師でしょ。できることはやらなくちゃ。記憶を蘇らせる薬なんてものはないけど、似たような効力のものは作れるかもしれないじゃない?」
「リーズ姉さぁん!」
 アニーはリーズの両手をつかみ、激しく上下に振った。そんなことは思いもつかなかったのだ。
「あたし、やるよ! このままハンスがあたしのこと忘れてるなんて、そんなの困るもんね!」
「ふうん、困るんだ?」
「そりゃあそうだよ」
 さらりと問い返されて、アニーは力強くうなずく。
 しかし、考えてしまった。
 ハンスが自分のことを忘れていて、起こる問題とはなんなのだろう。
 たとえば、課題を伝えに来なくなる──ということは、仕事なのだからないとしても、少なくとも説教は減りそうだ。いままでにしでかした失態を掘り返して、言及されることもなくなるだろう。さぼったところで探しにはこないだろうし、自分に関する都合の良い知識をいまのうちに埋め込んでおけば、対応の改善だって夢ではないかも知れない。
「あれ……? 困る?」
 それは、なんだかとてもバラ色なような気がして、首をかしげる。リーズが苦笑した。
「こらこら。悩まないの。忘れたままでもいいわけ?」
「ううー」
 アニーは、眉根を寄せた。
 君のことがわからないといわれたときに受けた、なんともいえない衝撃を思い出す。
 あれは、悲しかった。恐らく、理屈ではないのだ。
「やっぱり、困る。──よし、頑張ろう! ハンスを元に戻さなくちゃね!」
「その意気よ! あたしも協力するわ!」
 そうして、手を取り合った。


   *


 あれから数日間、アニーは錬金術に没頭した。これほど真剣に取り組んだのは初めてではないかというほどに。
 日が経てば治るというものの、いまだハンスの記憶が戻る気配はない。ならば、できることをやるしかない。
「たのもー!」
 大きな袋を抱えて寮内を走り抜け、アニーはハンスの部屋の戸を勢いよく開け放った。
「あ、ノック忘れた、ごめん」
 開けたあとで、謝罪する。仕事をしていたらしいハンスは、鳩が豆鉄砲を食ったような顔をして、それから眉をつり上げた。
「ごめん、じゃないだろう! 男性の部屋にいきなり入ってくるなんて、なにを考えているんだ!」
「いいじゃん、着替えてたとかじゃないんだからさー。お見舞いだよ、お見舞い。元気?」
 にこにこと、問う。なぜか、ハンスは一瞬動きを止めた。それから、不自然に瞳を逸らし、ゴホンと咳払いをする。
「……おかげさまで。まだ記憶は戻っていないが、それ以外は特に問題ない」
「あれ? なんであたし見ないの? ……はっ! ひょっとして、女の子として意識してくれてるっ?」
 記憶を失っているのならば、本来なら女性が苦手であるはずのハンスが、アニーに対しても挙動不審になる可能性はある。アニーは期待に胸を膨らませ、反応を待った。
 しかし、ハンスは眉をひそめ、真剣な面持ちでうなった。
「不思議だ。そういえば、君のことは、どうも女性という気がしない」
「……ストレートで失礼な。まあ、会ったときからあたしに対しては普通だったもんね」
 期待が外れ、息を吐き出す。扉を閉めようと振り返ると、ちょうどリーズがアニーに追いついたところだった。
「ちょっと、早いってば。走って行くことないでしょ」
 リーズは特に急ぎはしなかったらしい。平然とした顔で、部屋に入ってくる。
「リーズさんまで、どうしたんですか。ショック療法を前提にしたお見舞いは、ちょっと……」
 ハンスは身を引いた。なにかイヤな予感でもするらしく、顔色がよろしくない。
「どうしたって、お見舞いに決まってるでしょ。ショック療法なんて、そんな原始的なことしないから大丈夫。お薬をいっぱい作ってきただけよ、ねえ、アニー?」
「そうそう! 頑張っちゃったよ!」
 アニーは上機嫌で、テーブルの上に袋を空けた。複数の錠剤や小瓶、飲料を並べる。ざっと見ても十以上、テーブルに載りきらないほどの量を、誇らしげにハンスに示してみせた。
「さ、片っ端から試してみようか!」
 ハンスは、さらに身を引いた。逃げるように。
「ちょ、ちょっと待て。片っ端からって……それらは、記憶を戻す効果のある薬なのか?」
「ん、わかんないけど。大は小を兼ねる、みたいな」
 アニーはいたって真剣だ。リーズと共に試行錯誤した結果、行き着いた答えがこれだった。とりあえず色々やってみよう、という結論。
「最終手段でテラフラムもあるよ、一応」
「死ぬだろう! というか、それはショック療法じゃないのか?」
 顔色を変え、ハンスが必死の形相で首を振る。
 二人のやり取りを眺めていたリーズが、小首をかしげた。
「テラフラムが何かは、わかるわけね。アニーとの掛け合いを見てても、前と変わりないし。……本当に忘れてるの?」
「なっ」
 心外だといわんばかりに、ハンスは目を見開いた。
「そ、そんな嘘をついてどうするんですか! 本当に覚えていないんです。手紙のことだって……」
「手紙?」
「手紙って?」
 二人が口をそろえる。ハンスは慌てて咳払いをした。
「い、いや、とにかく。覚えていないものは、覚えていないんです。それに、急いで思い出すことでもないでしょう。仕事にもこれといって支障はないのだから、近いうちに復帰できるよう掛け合うつもりです。覚えていなくても、問題ありません」
 ひやりと、部屋の空気が冷えた。
 沈黙が訪れる。
「ハンスー」
 額を押さえて、リーズがうめく。ハンスは目をまたたかせた。
「ど、どうしたんですか?」
 リーズは、首を左右に振った。疲れたように、一言。
「ばかだねー」
「ば、ばか?」
「ねえ、ハンス?」
 リーズとは対照的に、アニーは笑顔だ。実際のところ、アニーは自分の感情を掴みかねていた。
 憤りと、悔しいようななにかと──もう一つあるような気がするのだが、濁った思いははっきりと姿を現してはくれない。
「そうだよねー、ハンスは困らないよね。あたしに関する記憶なんて、ほとんどろくでもないことだろうし。忘れた方がすっきり、とか」
「あ、いや、そういう……」
 やっと事態を察したのだろう、ハンスが慌て出す。アニーは、感情の大部分を身体から追い出すように、大きく息を吸って、吐き出す。
 しかし、その試みは成功しなかった。
 意図せず、まったくの不意打ちで、熱いものがこみ上げた。
 ぼろりと、涙がこぼれる。
「…………!」
 ハンスが息を飲む。アニーはそれでも、どうにか気持ちを落ち着けた。
「ゴメン、帰るね。お大事に」
 できるだけ冷静に、そう告げる。そうして足早に、部屋をあとにした。






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今回長めになってしまいました。切り時がなかった……。
あと2、3話かなあと思います。

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  Name : 光太朗。
  性別女、またの名を光太朗子。
  『アニーのアトリエ』ハマり中。

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