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『ミニミニアニー』2

続き!






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『ミニミニアニー』2



 小さなアニーの食事は、想像よりもずっと大変だった。
 温めたシチューは熱すぎると文句をいい、さましてから与えようとすると、ティースプーンでも大きいと駄々をこねる始末。ほかの道具を色々使ってみたがどれもうまくはいかず、結局、一番小さなスプーンの先に少しだけ食材を載せて、アニーがそこに口をつけるという形になった。
 肉を食べたいといわれたときには、ナイフではどうにもならず、ハンスはとうとう包丁を持ち出した。みじん切りにするしかない。
「何気なく使ってるけど、サイズの合った食器とかそういうの、偉大だね……」
 食べるだけで疲れてしまったのだろう、大きくため息を吐き出しながら、アニーがそんな感想を口にする。だんだん慣れてきたハンスは、そうだなと答えながらも、小さくちぎったパンをシチューにひたし、それも口元まで運んでやった。アニーが首を伸ばし、パクリと食べる。
「僕は雛を持った親鳥の気分だ」
 率直な気持ちだった。いやな気分ではないのだが。
「ねー、このまま元に戻らなかったらどうしよう」
 お腹一杯ということなのだろう、そのままごろんとテーブルに寝転がり、アニーがうめいた。
「珍しいな。考えていても仕方がないだろう。一生元に戻れないようなとんでもない薬を、偶然作れるとも思えないしな」
「そうだけどー。ハンス冷静だね。自分のことじゃないから、そんなどーんと構えてられるんだよ」
 アニーがぐちぐちと漏らす。まさか今日のメニューに酒でも入っていたのだろうかと一瞬疑うが、どうやら酔っているというわけでもないらしい。
 いくらアニーでも、突然小さくなってしまえば、不安なのだろう。
「でも、ま、考えてもしかたないよね」
 アニーはがばりと身体を起こした。
「もし戻らなかったら、ハンス、あたしを養ってね。玉の輿は我慢するから」
「……僕にこのまま親鳥をやれと?」
「なかなか新鮮でしょ」
 断る、といおうと思ったのだが、せっかく浮上したところに水を差すこともない。ハンスは息をついて、食器を片づけようと立ち上がった。
「ケーキは、まだ入るか?」
「ううん、もう限界。片づけも明日でいいよ。ね、そんなことより、眠い」
 どうやら、ペースを取り戻したようだ。大きく伸びをして、そのまま両手をハンスに差し出す。
「運んで、ベッドまで。テーブルじゃカタイもん」
「……まったく」
 ハンスは食器を置くと、アニーに手を差し出した。小さな、しかし冷たい足が手のひらに乗り、にっこりと笑う。
「ちょっとの体験だと思えば、楽しいよね」
「そこまで楽観的になるのもどうかと思うが」
「いいじゃん、ペペならきっと治せるよー。あたし、師匠を信じてるもん!」
 都合の良いときだけ師匠呼ばわりされるペペにかすかに同情しつつ、ハンスはアニーをベッドまで運ぶ。まるで人形遊びだな、と思いながら、枕に頭を載せてやり、そっと横たわらせた。
「……柔らかい」
 それは、喜びの声ではなかった。不満そうなニュアンスが多分に含まれている。アニーはベッドに埋もれそうになりながら、もたもたと起きあがる。
「寝れないよ、これじゃ」
「タオルかなにかで、ベッドを作るか?」
「うーん」
 考え込んでしまった。それから、思いついたように目を輝かせ、ちょいちょいと手招きをする。
「どうした?」
 顔を寄せると、小さな口が耳に近づいた。あのね、と囁く。
「今日はここで、一緒に寝よ?」
 その言葉に、ハンスは一気に動揺した。顔を赤らめ、身を引こうとするが、アニーの手がすかさず襟元をつかみ、そのままぶら下がる。しがみつくような格好で。
「いいじゃん、ね? 親鳥なんでしょ?」
「…………っ、き、君は……────っ、仮にも、僕は……」
 いいたいことはいっぱいあった。男だぞ、とか、そういうことを本当はいいたかった。
 しかし、アニーはきょとんとしている。彼女はごく単純に、寝心地の良い場所を求めているのだろう。
「…………」
 脱力した。ミニサイズのアニーを相手に、自分だけが踊っていても仕方がない。
「……今回だけだからな」
「あたりまえだよー、こんなことそうそうないって。あ、元に戻らなかったら、毎日かな」
 諦めるしかなかった。胸元のアニーを支えるように手をあてて、部屋の火元をすべて消すと、ベッドまで戻る。
 いざ入るとなると、緊張した。
 彼女が毎日眠っているベッドだ。まさか、ここで寝ろといわれるとは。というか普通はいわない。普通の神経ならいわない。絶対にいわない。
「あ、アニー、やはり、これはどうかと……」
 しかし、返事はなかった。
 ハンスの手の中で、胸に頬をこすりつけるようにして、アニーはすでに眠っていた。
「…………」
 引き剥がして、ベッドに置いてしまおうかとも考える。しかし、明日、なんといわれるのだろう。なにより、そんなことをしてしまっては、この幸せそうな寝顔が目を覚ましてしまうかもしれない。
「……………………」
 ハンスは考えた。ものすごく長時間考えた。
 そうして、とうとう諦めて、アニーを上に乗せたまま、そろりそろりと仰向けでベッドに潜り込む。
 ひやりと冷えたベッドから、アニーの香りが漂う。できるだけ意識を止めるよう心がけ、ハンスは目を閉じた。
 これは人形だ、これは人形だ──胸中で呪文のように唱えながら。




 まさか、眠れるとは思わなかった。
 柔らかい感触に、ハンスは目を覚ます。外はまだ暗い。夜明けは遠いのだろうか。
 寝ぼけた頭で、この柔らかさはなんなのだろうと考える。手を伸ばしてさらに触れると、それはもぞもぞと動いた。むにゃ、と聞き慣れた声。だんだん、状況を思い出す。
 触れていたのは、頬だった。
 すぐ目の前に、寝顔。
 小さくない。
 ごくふつうの、あたりまえのサイズで、アニーが眠っている。
「────っっっ!!!」
 ハンカチしか巻いていなかったアニーが、どんな姿で隣に眠っているのか、火を見るよりも明らかだった。きわどい、大変きわどい状況で、ハンスに密着し、眠りこけている。
 悲鳴を我慢したわけではなかったが、とても声にならなかった。起こさないように、という配慮ができるはずもなく、それでも決して見ないように飛び起きて、ハンスはそのまま逃げるようにアトリエの戸を開ける。走り去ろうとして、慌てて思いとどまった。あの状態の彼女を、このまま、ここに放っておくのだろうか──もし、だれかが訪れたりしたら。いやな考えばかりがぐるぐるとまわる。
 空は暗い。そして寒い。まだ、ペペは帰ってこないだろう。
 ハンスは、ずるずるとアトリエの戸にもたれかかり、地面に座り込んだ。
 ここでこうしているしかない──まさか、もう一度アトリエに入るわけにも、ましてや帰るわけにもいかなかった。
 

 そうして、目を覚ましたアニーの悲鳴が聞こえてくるまでの数時間──それはすっかり陽が昇ったころだったが──、ハンスは動かずの石となり、そこに座り続けるのだった。







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ハイおやくそく!
というか絶賛スランプ中ですみません。せっかくネタをいただいたのに。
いただいたのは、
「ハンアニでどっちかちっさくなる(できればアニー)。幼児化でも妖精さんサイズでもはたまた南くんの恋人状態でも」といったものでした。
尚利さま、素敵なネタをありがとうございましたーー!!


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  Name : 光太朗。
  性別女、またの名を光太朗子。
  『アニーのアトリエ』ハマり中。

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