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恋への墜落 5

暗さがちょっと払拭される感じで。ラストスパートへ向けて、です。





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『恋への墜落』 5
 


 アトリエの扉が開けられた。
 アニーはびくりとして、そちらを見る。入ってきたのは荷物を抱えたぺぺで、なあんだ、とため息をついた。
 そうして、錬金釜に向かう。朝からずっと、失敗続きだ。ちっとも身が入らない。
「あのなあアニー。本当ならこんなこといわないんだけどな、どーしても、どーーーっしても調子が悪いっていうなら、休んだっていいんだからな。材料だって無限じゃねーんだぞ」
 不機嫌そのもの顔で、ぺぺがいう。どすんとテーブルに荷物を置いた。錬金術の素材と、彼自身のおやつの類がごろごろとこぼれる。
 ぺぺがこんなことをいい出すのは珍しかった。初めてだといってもいい。というのも、ここ数日、アニーの調合が成功した試しがないからだ。いつのもように逃げ回るならともかく、ずっとアトリエにこもりきりでひたすら調合──しかし、失敗ばかり。
 師匠としても見ていられないのだろう。最初の二日あたりはみっちり説教したぺぺだったが、それでもアニーに響く様子がなく、諦めたようだ。
「マジメにやってるんだから、いいじゃん。弟子の成長を喜んでよ」
「なにが成長だ。マジメにやってたら失敗するわけない調合ばっかじゃねーか。ムダだ、ムダ!」
 ちょうど錬金術大会の課題は提出したばかりで、新しい依頼も請け負ってはいなかった。だからこそ許されている状況なのだが、そうはいっても限度というものがある。リゾートの開発をしなければならないし、そのための資金調達、もちろん錬金術の腕を上げる必要だってあるのだ。
 そんなことは、アニーだってわかっていた。
 しかし、どうしても、集中できないのだ。

 あの日、扉越しに声を聞いて以降、ハンスには会っていない。新しい担当がどうのといっていたが、それらしき人物も訪ねてこない。
 もちろん、アニーが自分から本部に出向く気にはなれなかった。ひたすらアトリエに引きこもり、釜ばかりをかき混ぜていた。
 寝ているだけでは、どうしても考えてしまうのだ。せめてなにかをやっていたかった。
 気持ちの整理など、ついてない。アニーの脳内は、あの日あのままで止まっていた。まだ、なにがなんだかわからない。
 ハンスが自分のことを好きだといっていた──そんな嘘をつくような人ではない。本当のことなのだろう。でも、それならなぜ──
 ──いつもここで、思考が止まる。
 なぜ、の続きがわからない。
 もやもやとした気持ちに支配され、どうすればいいのかわからなくなる。アニーは盛大にため息を吐き出した。
「あー! アニー! それ違うだろ!」
 突然、ぺぺが叫んだ。え、とアニーが顔を上げる。釜のなかが濃い緑色に変化している。
「わわ、大変!」
 ぺぺが中和剤を手渡し、アニーは急いでそれを投入した。ふつふつとわき上がっていた釜がおとなしくなり、やがて色も薄くなった。ほう、と息をつく。
 しかし、ほっとしている場合ではないと、すぐに気づいた。怒りの炎が見える。振り返るまでもなかった。
「アーニィ~~!」
 ぺぺが鬼と化していた。杖を振り上げた状態で、わなわなと震えている。
「ぺ、ぺぺ! あたしが悪かったよ! ちゃんとやる、ちゃんとやるから!」
「なにがちゃんとやる、だ! もう錬金術なんてやらせるか──! さっさと気持ちを切り替えてこいっ!」
 怒鳴り、ぺぺはアニーを叩きつけた。そのまま扉まで追いやる。
「ちょ、ちょっと……!」
「いいかっ、それまではここに入れねえかんな! 戻ってくるなよ、アホ──!」
 両手を挙げて怒っている。もはやとりつく島もない。
 勢いのままに、アニーはアトリエから追い出される。扉が閉められ、慌てて手をかけるが、もう遅かった。きっちりとカギがかけられている。
「カギ、持ってないよ! ぺぺ──!」
 声を張り上げるが、返事はない。窓まで回り込もうと考えたものの、あの様子からすれば、中には入れてもらえないだろう。
 気持ちの切り替え、というものをしないことには、許してもらえそうもない。
「うう」
 アニーは肩を落とした。いったいどこへ行けばいいというのか。
 どこにいっても、説明を要求されそうだ。とはいえ、ここで座り込んでいるわけにもいかない。
 こんなときにでもぎらぎらと照りつける太陽を、睨みつけた。なんて恨めしいのだろう──ひとの気も知らないで。
 ため息を吐き出して、仕方なく、アニーは歩き出した。



 レストランや雑貨屋に行く気にはなれなかった。本部などなおさらだ。歩いているうちに、鞄のなかに入れたままだった本の存在を思い出す。なんとなく気が重かったが、ずっと持っているわけにもいかない。アニーは図書館へ向かった。
「メルディアー、返しに来たよ」
 覗いてみると、お馴染みの司書はカウンターで本を開いていた。利用者の姿は他にもちらほらあるものの、アニーの危惧した人物たち──顔なじみの面々は、どうやらいないようだ。ほっと胸をなで下ろす。
「そろそろだと思っていました」
「え?」
 メルディアが柔らかく笑って、アニーは思わず聞き返す。
「そろそろ?」
「読み終わったんですよね、『リュミエール・サーガ』?」
 ああそういうことか、とアニーは納得する。考えてみればそれしかない。本当はもっと前に読み終わっていて、機を逃していたのだが、わざわざいうことでもないような気がした。
 鞄から本を取り出し、差し出す。
「ありがとね」
「いかがでしたか? 恋がしたくなる物語として話題なんですよ。文章も読みやすいですし、十代半ばから二十代までの女性に特に支持されているんです」
 まるで資料でも読み上げるようにそういわれ、アニーはちょっと困ったような気分になった。おもしろかったし、恋の疑似体験というものもした。オススメといわれた言葉に間違いはなかったのだが。
「おもしろかったし、リュミエール様かっこよかったけど……なんていうか、現実って、違うよねえ」
 ため息がもれる。メルディアは首をかしげた。
「現実? なにかあったんですか?」
「う、いや、なにってことでも……──メ、メルディアはさ、どう思う? こういう、リュミエール様みたいな、白馬の騎士って」
 苦し紛れに逆に問うと、メルディアはふと真剣な顔をした。
「そうですね……非現実的ですね。実際に彼のような人物が現れる可能性は皆無に等しいと思います。たとえ現れても、こうも都合良く相思相愛にはならないでしょう」
 淡々と、正論を述べられる。ほとんど予想していた回答だけに、アニーは苦笑するしかない。
「ですが、それがその人にとっての『白馬の騎士』となれば、話は別なのではないでしょうか。だれにでも、特別な人というのはいるものです。ときには身近すぎて気づかないこともあるかと思いますが……それはとてももったいないことだと思います。よく、自分の心を見つめれば、きっとわかります」
「……ん? どういうこと?」
 答えずに、メルディアは微笑んだ。本の返却手続きをして、ありがとうございました、ともう一度笑う。
 なんだか釈然としなかったが、これ以上ここにいる空気でもないような気がした。こちらこそ、と手を振って、アニーは立ち去ろうとする。
「アニーさん」
 背を向ける瞬間に、呼び止められた。
「なに?」
「……なにか、悩んでいらっしゃるでしょう? 溜めてしまっていると、身体に悪いですよ。胸の中になにかがあるなら、ぜんぶ出してしまわないと」
 アニーは面食らった。それほどわかりやすいだろうか。確かに溜め込んでいて、どうすればいいのかわからなくて、鬱々とした日々を過ごしていたけれど。
「その方が、アニーさんらしいです」
 さらりといわれ、アニーは思わず笑った。
 たしかにそうだ。悩んでいるだけなんて、らしくない。
「うん、そうだね……ありがとう、メルディア。あたし、行ってみる!」
 晴れやかにそういって、図書館から駆けだしていく。


 アニーが出て行ってすぐ、カウンターの影から、ジェリアとリーズが顔を出した。
「……これで良かったんですよね? ずっとそこで聞いているぐらいなら、出てくれば良かったのに」
 メルディアがため息混じりにつぶやくと、うしろの二人は満面の笑みで、両手で大きなマルを作ってみせた。
 
   





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メルディアさんとってもウロオボエでごめんなさい。
本を借りるならここしかないだろうということで。

次でラストです。


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  Name : 光太朗。
  性別女、またの名を光太朗子。
  『アニーのアトリエ』ハマり中。

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