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恋への墜落 4

フライング事件その後です。
もっと明るくしたいですが、ここは堪えてシリアス風味。






*****






『恋への墜落』 4



 もうだめだもうだめだもうだめだ──
 本部の定位置に座り、ハンスは頭を抱えていた。
 仕事どころではなかった。
 ダニエルやほかの同僚たちが、遠巻きに見ている。遠慮しているのか、仕事はあまり回ってこない。
 しかし、それに応えるどころか、気づくことすら、いまのハンスには困難だった。
 もうだめだ──後悔の念ばかりが、頭の中を占拠していた。
 アニーを好きだという気持ちは、衝動でもなんでもない。好き、だったのだ。気づいてしまった。それはいい。
 問題は、あの行動だ。
 まさか、むりやりキスをしてしまうなんて。
 自分がそんな人間だとは思わなかった。
 驚いたような、傷ついたような──大きく目を見開いたアニーの表情が、蘇る。
「もうだめだ……」
 恋の行方がどうの、ということではない。
 ひととして。
「あああああ」
 同僚たちは、だれも声をかけなかった。ただ距離を置いて、そっとしておいてくれた。もしかしたら、近寄れないだけなのかもしれなかったが。
 その様子を見ていたジェリアが、興味深そうに唇をすぼめて本部を出て行ったが、もちろんそれにも気づかなかった。


   *


「アニー、いる~?」
 お馴染みのドアを開けると、先客がいた。
 クッションに顔をうずめて微動だにしないアニーと、その隣で困ったような顔をしているリーズ。
「ありゃりゃー」
 思った通りの展開に、ジェリアは苦笑した。アニーの好きな人疑惑が議題となった会議ののち、飛び出していったハンスにある予感──ある期待といい換えることもできるのだが──はしていたのだ。ここにいるということは、リーズもそうなのだろう。
 そもそも、ジェリアとリーズは、アニーの「恋」の真相を知っていた。知っていたのだが、ハンスの反応がおもしろいので、ああやってけしかけた。それでも、あのハンスのことだ──どうせ行動を起こすことはないだろう、と思っていたのだ。
「もう、この子どうしちゃったの。さっきからずっとこうなんだけど。ひとこともしゃべんなくて」
 リーズが肩をすくめる。ふむふむと返事をして、ジェリアも椅子に座った。リーズが用意したらしい茶を勝手にいただく。
「ハンスくんはもっとひどかったよ~。この世の終わりみたいな顔してた。なにがあったのかな?」
「え、なになに、とうとうなにかあったの?」
 リーズも身を乗り出す。ずっと黙っていたアニーが、やっとクッションから顔を上げた。顔が赤い。
 二人は待った。推測することは可能だが、アニーの口から聞かないことにはどうにもならない。もしかして告白でもされたのか──そんな思いに胸を高鳴らせ、二人して生唾を飲み込む。
「わけがわかんないよ」
 泣きそうな声でうめいたが、それでもアニーは口を開いた。二人の顔を見て、小さな声で、つぶやく。
「いきなり、……キス、された」
 ジェリアとリーズは、見事に固まった。そうして、二人揃って天井をあおぐ。
「あちゃ~」
「いきなりそこか……」
 感想はほとんど同一だった。キス。まさか色々飛び越えてそこに至るとは思わなかった。それならば、アニーのこの動揺も、ハンスのあの沈みっぷりも、納得ができる。
「……どういう流れで、そうなっちゃったわけ?」
 諦めたように息をつき、リーズが問う。アニーは口の半分をクッションで隠すようにして、ぽつりぽつりと話し始めた。
「えっと……そもそも、あたしが恋をしてるって話が始まりだったと思うんだけど。好きな人ってだれだって話になって……騎士のリュミエールさまだって、でもそれは憧れだからって──あれ? そういえば本の話だっていわなかったかもしれないけど──そしたらハンスが怒ってさ。なんか機嫌悪い感じだったから、ハンスも恋をすればいいのにっていったんだよ。そしたら、恋ならしてるとかいい出して、いきなり……──!」
 アニーはだんだんと早口になっていった。ひょっとしたらどこかに発散したかったのかも知れない。声にとまどいと怒りが滲む。
「いきなりだよ! いきなりキスしたの! それで、この意味がわかるな? とかってわけわかんないこといって……わかんないよ! どういう意味っ?」
 リーズは脱力した。ええぇ、と情けない声が口から漏れる。
 ジェリアはしばし思案して、それから恐る恐る確認した。
「……どういう意味か、わかんないんだ?」
 はっきりと、アニーはうなずいた。
「わかんないよ、そんなんじゃ」
 ジェリアとリーズは、顔を見合わせた。ハンスに対して、哀れみのような思いすらわいた。はたから見ればあれほどわかりやすいというのに、実力行使に出てさえ、この少女には伝わっていないのだ。
「ま、あたしから色々いうことじゃないし……。ハンスの行動だって問題があるわけだし。しょうがないのかもしれないけどさ」
「う~ん、ちょっとハンス君がかわいそうかなー。いきなりキスなんて、もちろん許せないけど」
 二人の言葉に、アニーの顔に疑問符が浮かんでいく。このままでは質問攻めにあいそうなので、二人はさっさとアトリエを出ることにした。
「悩むだけ悩みなさい、若いんだから」
 そういい捨てて、リーズは出て行った。
「話なら聞くけどー。もやもやするぐらいなら、ぶつかった方がいいかも」
 ジェリアもそれに続く。
 
 残されたアニーは、信じられない思いで、閉ざされた扉を見つめていた。
 わけもわからずに、突然キスされたのだ。もちろん、ファーストキスだった。明確な説明もなく、自分は混乱するばかりだというのに。
 あの二人には、わかっているようだった。
 ハンスがなぜ、あんなことをしたのか。
「わかんないよ……」
 床に転がったままの本に視線を移す。あれだけドキドキしたはずの『リュミエール・サーガ』は、ただの物語としてそこにあるだけだった。もう、ときめきを与えてくれそうもない。
 どこに出かけたのか、ぺぺは不在だ。それがせめてもの救いだった。こんな状態で調合などできるはずもないし、問いつめられても説明できる気はしない。
 どうせ、バカ呼ばわりされるのだ。
「あ────、もう!」
 叫んで、アニーはベッドに寝転がった。 
 
  
 


 いつの間にか、眠ってしまったようだった。
 目を開けると外は薄暗く、灯りもついていない。ぺぺはまだ帰ってきていないようで、アトリエはひんやりとしていた。
 身体を起こす。
 起きたばかりだというのに、頭の中は寝る前とまったく同じように混乱していた。
 唇に、手を当てる。
 ハンスの行動を、思い起こす。
 ここに、触れたのだ。いつも小言ばかりをいっている、あの唇が。
 恋ならしている、といっていた。
 そうして、キスをされた。
 まさか──と、思わないでもない。けれど、すぐに打ち消す。あのハンスに限って、そんなことはあり得ない。女に見えないだのなんだの、散々いわれ続けているのだから。

 コンコンと、扉がノックされた。
 その音には覚えがあり、アニーは身構える。息を殺していると、きまじめな声が聞こえた。
「アニー、いるか?」
 ぴたりと、アニーは動きを止めた。ハンスだ。いる、と答えることができない。もちろん、ドアを開けることも。
 カギならかかっていない。だが、ハンスは勝手には入ってこないだろう。そういう人だ。
「……………なに?」
 押し殺した声で、それだけつぶやく。聞こえたのか聞こえなかったのか、長い長い沈黙を挟んで、扉の向こうから声が続いた。
「すまない」
 謝罪の言葉に、頭に血がのぼった。それはひどく卑怯な言葉であるように思われた。すまない、といわれて、どうしろというのか。
「……謝るのも違うかと思ったんだが。それでも、君の気持ちを考えず、あんなことをしてしまった。その点について、やはり、謝らなければならない。本当にすまなかった」
 頭を下げている姿が見えるようだった。アニーは答えずに、じっと続きを待つ。気配は、まだそこにあった。
「君が好きだ」
 告げられた言葉に、アニーの思考が止まった。
 好き。
 君が好き、と──そういったのだろうか。あのハンスが。本当に?
 先ほどよりも、ずっと長い沈黙が落ちる。
 ハンスは、咳払いしたようだった。アニーはやはり声を出すことができず、ベッドの上にうずくまる。
「──わかってる、君にはそんなつもりはないということ。迷惑になるだけだろうということも。それでも、抑えられなかった。君が、好きなんだ」
 アニーは両手で顔を覆った。なにをいい出すのだろう。アニーにとって、それはあまりにも不意打ちだった。やっと、キスの真意がわかる。だが、わかったところでどうしようもない。混乱は増すばかりだ。
 ため息のような、息を吐き出す音が、かすかに聞こえた。細く長く──なにかを諦めるように。
「担当を変えてもらえるよう、掛け合ってみるよ」
 アニーは耳を疑った。
「君の担当になれて、本当に良かった。これからも、頑張ってくれ」
「──ハンス?」
 思わず、声をあげる。なにをいわれたのかわからない。足音が遠のいていく。
 やっと、アニーはベッドから飛び出した。ドアまで走り、手をかける。開ける直前に、ためらった。
 ここを開けて、なんというつもりなのだろう。担当を変えるなんてやめてと、まさかそんなことをいうつもりなのだろうか。どんどん混乱していく。頭のなかでぐるぐると激流が巻き起こっているかのようだった。
 結局、アニーはそのまま手を下ろした。
 のろのろとベッドに戻り、寝転がる。枕に、深く顔をうずめた。





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暗いー、ですがSSにはない味を勝手に楽しんでます。
ラストでは明るくしたいです。あと2、3回続きそう。
というか、キスとか好きとか、オリジナルでもこんなに書いたことないです。こ、これも修行……!


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  Name : 光太朗。
  性別女、またの名を光太朗子。
  『アニーのアトリエ』ハマり中。

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