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恋への墜落 3

別名、「恋するアニー」。
物語がやっと動き出します。






*****






『恋への墜落』 3



「あたし、恋をしてるの」
 うっとりとした瞳でつぶやかれたその一言に、ハンスは言葉を失った。
 恋。
 いつでも玉の輿玉の輿といっている、あのアニーが。
 ハンスの動揺は相当なものだった。完全に挙動不審になり、適当なことをいってアトリエを出て──あろうことか、リーズにそのことを相談してしまった。



「というわけで、緊急会議よ」
 ものの一時間後には、レストランにて会議が開かれていた。
 ハンスから話を聞いたリーズの行動は早かった。呆れるほどに。
 もうひとつ呆れるのは、この召集率の高さだ。最初からレストランにいたフィズとビュウはともかくとして、カイルもキルベルトもジェリアも──アニーの目を盗んでぺぺまでもが、集まってきていた。
「議題は──あのアニーの口から出た、『恋をしている』発言について。各自、知っていることは正直に話すように」 
「……あの、リーズさん。なにもこんなオオゴトにしなくても」
「ああ、だいじょうぶ、ハンスは除外だから。ハンスにそういったってことは、アニーの恋とハンスが無関係なのはほぼ間違いないものね」
 さらりと返され、ハンスは思いの外ショックを受けた。他意がないだけに恐ろしい。
 フィズが全員に飲み物(有料)を配り終わったところで、各自の証言が始まった。

 証言、1。
 レストランの看板娘。
「知らないわよ! そんな素振り、ぜんぜんなかったもん! そ、そんなこと、急にいわれたって、あたしはなにも聞いてな……う、うえーん!」
 後半は涙声。なぜかビュウの胸ぐらがつかまれる。

 証言、2。
 現在首が絞まりかけている、方向音痴の冒険者。
「聞いたことねえなあ。それらしい相手にも心当たりぜんぜん。オレら以外のだれかだとしてさ、だれも知らないっておかしいだろ。あのアニーだぜ? ……って、くる、苦し……」
 もっともらしいことをいうも、情報はナシ。

 証言、3。
 いつでもどこでも怪しい、異国の機械士。
「あーまー、しょうがないよねー。いつかはこうなるかなって思ってたさ。だってほら……ボクってモテてモテてやまないっていうか大人気っていうか」
 致命的な勘違い。

 証言、4。
 脳まで筋肉でできているのではと噂の大剣使い。
「ないない、アニーだろ。ねえよ。聞き間違えたんだろ。あたし、鯉を買ってるの、とか、故意に殺ったの、とかよ」
 致命的に役に立たず。

 証言、5。
 今日も華麗に団長から逃げてきた女騎士。
「う~ん、わかんないよ~。あ、でも最近、ちょっと様子おかしかったかも? なんかぼんやりしてるっていうか……気のせいかもしれないけど~」
 手がかりになりそうでならないライン。

 証言、6。
 アニーと寝食をともにする、スパルタ妖精。
「知るか。おまえら以外のだれかがよく訪ねてくるとか、そういうこともねえと思うけどな。つーかほんっっとヒマだな、おまえら」
 なにも得られず。

 もちろん、ハンスにも心当たりはなく、緊急会議はあっさりと行き詰まってしまった。彼女にだれよりも近しい面々が集まっているだけに、情報ゼロというのはあまりにも虚しく、かつ、悔しい事実だ。
「まあ、恋のひとつやふたつしたって、おかしくないけどねー。恋しなさいって、あたしもいったし」
 ジュースを飲みながら、リーズがそんなことをつぶやく。ハンスは思わず紅茶を吹き出しそうになった。
「そ、そんなこといったんですか!」
「いったけど。悪い?」
 悪い、と聞き返されてしまえば、答えようがない。やめてくれという権利はないし──第一、ハンスは、自分のなかの焦りと落胆の正体もつかみかねているところなのだ。
「最近、錬金術師としての人気も上がってきてるんだよね~、アニーって。本部でも、ときどき噂聞くよ~。ハンス君も聞くでしょ?」
 メニュー表を片手に、新しく食べ物を注文しながら、のんびりとジェリアがいった。あまり噂というものに頓着しないハンスは、首をかしげる。錬金術師としての評価が上がってきているのは確かだが、人気、という意味で話を聞いただろうか。
「ギルドでも聞くなー、そういえば。あのギルドに似つかわしくない感じがいいとかなんとか。このオレ相手でも物怖じしないぐらいだ、あいつはわけ隔てないしな」
 そこにキルベルトの証言も加わって、ハンスはさらに不安に陥った。どうやら、自分の知らないところで、彼女は着実に人気を得ているらしい。
「と、いうことは──」
 もっともらしくうなるようにして、リーズがひとつの結論を導き出した。
「人気も実力も急上昇のアニーにだれかが恋をして、電撃告白。その相手がかっこよかったり──まあたとえばお金持ちだったりしたのかもね──で、アニーも恋に落ちる。晴れて二人は両思い。ただいまおつき合いを始めたトコロ……──とか、そういう感じかな?」
 あたりは、しんと静まり返った。
 一度はおさまっていたフィズの涙が再びあふれ出す。そーかも~、とジェリアは納得し、そーかぁ? とぺぺは呆れた。
「とにかく、本人に聞くのが一番だってことね」
 リーズがそう続けたときには、ハンスはレストランを飛び出していた。
  




「し、失礼する」
 勢いのままにアトリエまで来たものの、たどり着いてしまってから、ハンスの勢いは収縮してしまった。
 アトリエでは、アニーがのんびりと茶を飲んでいた。ティーカップの隣には分厚い本が置いてある。珍しく勉強でもしていたのだろうか。
「どしたの、ハンス。今日二回目だよ?」
 鋭い質問に、口ごもる。確かに二回目だ。一回目の訪問もたいした用事ではなかったような気がするだけに、耳が痛い。
「いや、その……ちょっと、ききたいことがあるんだが」
「うんうん、なに? 課題のこと?」
「そうではなくて」
 純粋に不思議そうな目で見返してくるアニーに、ごほんと咳払いをする。聞くだけなら不自然ではないはずだ、と自分にいいきかせた。恋をしている、と彼女はいったのだ。へえだれに? と聞くのはごくあたりまえの流れのはずだ。時間が経ってしまっている、という事実が多少どころではなく問題だったが。
 すわれば、という誘いを丁重に断る。ハンスは床に踏ん張るようにして、思い切って、質問を投げた。
「こ、恋をしているというのは、本当か?」
 いってしまってから、汗が垂れた。やはり不自然だっただろうか。アニーはきょとんとして、それから頬を赤らめた。
 その乙女な反応に、脳が横から叩かれたような気持ちになる。アニーが続けた言葉が、致命的だった。
「な、なんで知ってるの。あたし、いったっけ?」
 なんで、知ってるの────
 まるでアトリエ全体がぐらぐらと揺れているようだった。
 否定しなかった。
 つまり、なにかの間違いということではないのだ。
 アニーは、だれかに、恋をしているのだ。
「……相手は?」
 知らず、低い声になる。アニーは顔を赤くして、恥ずかしそうに身をよじった。
「そ、そんなこと聞くの? いえないよー。って、なんで怒ってんの?」
「相手は?」
 気が焦る。怒っている、を否定できる気はしなかった。得体の知れない苛立ちに支配されながら、ハンスはアニーの肩をつかんでいた。
「だれなんだ?」
「い、痛いよ、ハンス」
 顔をしかめられ、慌てて力を緩める。だが、離せるはずもない。
 アニーは一度うつむいて、それから顔を上げた。あのね、と囁く。
「騎士の、リュミエールさまだよ。すごーく、かっこいいの」
 それは、ハンスの知らない名だった。
 騎士であり、アニーと面識があるということは、当然セラ島に来ている人物のはずだ。知らないはずがない。
 しかし、思い当たらない。
 騎士のリュミエール──ジェリアに聞けば、いや、そうでなくても、本部で調べればすぐにわかるだろうか。
「……付き合っているのか?」
「ええっ?」
 当然の問いだったのだが、アニーは目を見開いた。ぶんぶんと首を左右に振る。
「まさか! そんなわけないじゃん! リュミエールさまにはミシエラがいるもん、あたしのは……片思いっていうか、憧れっていうか──」
 ミシエラ。また知らない名だ。
 相手がいるというのに、それを知っているのに、それでも恋をしているといっているのだ。敗北感のようなものが胸に落ちた。ハンスは唇を噛む。
 腕に力が込められて、アニーが眉をしかめる。この怒りをどうすればいいのかわからなかった。
 こんなはずではなかった、という後悔が、広がった。
 だれかに思いを馳せ、頬を染めるアニーなど、見たくはなかった。
「ねえハンス、どうしたの? なんか変だよ?」
 アニーが見上げてくる。この距離で肩をつかまれて──ぺぺも不在で、二人っきりだというのに。相変わらず、どこまでも無防備に、小首をかしげて。
 ハンスの胸中に、黒いものが、生まれた。
 アニーは気づかないだろう。
 いわなければ、気づかないだろう。
「……ハンス?」
 苛立ちと、憤りと、焦りと、落胆と──まだどうにかなるかもしれないというかすかな期待と、欲望。
 それらが入り交じり、ハンスの中で渦を巻いた。
 思考が追いつかない。それでも、ぎりぎりで、自分を保つ。
 しかし、アニーの何気ないひとことが、ハンスを決壊させた。
「ハンスも、だれかに恋してみればいいのに」
「────っ」
 衝動のままに、ハンスは動いた。
 アニーを引き寄せ、その唇に自らのそれを押しつけた。強く、長く。彼女がもがくのもかまわずに、力の限り。
「……っ、むぅ……!」
 腕のなかで、アニーが暴れる。彼女は手をばたつかせ、その手がテーブルの上の本に触れた。持ち上げ、角でハンスの頭を打ち付ける。
 さすがに、ハンスはよろめいた。アニーを解放し、頭を抑える。
「な、な……っ、なんで……!」
 アニーは真っ赤な顔をしていた。理由ならはっきりしていた。もはや、疑いようもなかった。
「恋なら、している」
 低く、つぶやいた。
「……いっている意味が、わかるな?」
「こ、恋ッ?」
 アニーが、目を白黒させる。その手が握っている本に、目が留まった。
 題名を、見てしまった。

『リュミエール・サーガ』

 表紙には、白馬に乗った騎士が描かれている。瞬時にハンスはすべてを悟った。とんでもないことをしてしまったのだとわかる。勢いに任せて、自分はなにをしてしまったのだろう。むりやり、彼女の唇を──
 しかし、もう遅かった。なにもかもが手遅れだった。
「で、出て行って──!」
 叩き出された背後で、アトリエの扉は固く閉ざされた。



 


────────────
続き物っぽくなってきました。
そのうち続きます。


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  Name : 光太朗。
  性別女、またの名を光太朗子。
  『アニーのアトリエ』ハマり中。

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