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『モテモテカフス』

アニーがハンスにプレゼント、というお話です。
ハンスは今日もオトメンス。





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『モテモテカフス』



「ハンスさんって、休日はどうやって過ごされているんですか?」
 昼休みの本部にて。
 唐突にダニエルにそう問われ、ハンスは返答に窮した。
 どうやって、といわれても。
 持ち帰る仕事や雑務も多く、本当の意味での休日はほとんどない。あったとしても、アニーの採取にかり出されたり、わけのわからない騒動に巻き込まれたり。
「そりゃ、デートに決まってますよ。ねえ、ハンスさん」
 話を聞いていたらしい同僚がそう口を出してきて、ハンスはさらに答えることができなくなってしまった。
 デート。
 瞬時に、アニーの姿が脳裏に浮かぶ。
 しかし、いわゆるデートの様子までは想像できず、眉間にしわを寄せた。身をかがめて素材を採取している姿しか想像できない。
 その様子を怒っていると解釈したのか、ダニエルが慌てて声を上げる。
「ハ、ハンスさんは、すごく忙しいですもんね! くだらないことを聞いてしまってすみません。仕事だって、僕らの倍ぐらいこなしてるのに」
「い、いや、そんなことは……」
 彼なりに気を遣ったのかもしれないが、ハンスはとりあえず否定しようとした。だが、否定しところで、これ以上つっこんで聞かれても困ってしまう。
「そういえばハンスさんって、いつ見かけても制服姿ですもんね。休日なんてないんですか、ひょっとして。デートはどうしてるんです?」
 単純に不思議そうに、同僚がそんな問いを投げてくる。ああもうそっとしといてくれ……そう思いながら、思うだけで、ハンスは曖昧にうなずいたり首を振ったりするだけだ。
 そもそも、なぜ彼のなかでは休日といえばデートなのだろう。そこからどうにかしていただきたい。そんなこといえないが。
「……そっかそっか、そうだよねえ」
 不意に、声がした。
 振り返ると、アニーが顎に手をあてて、なにやら考え込んでいた。
「ア、アニー? いつから……いや、どうしたんだ?」
「んん、いや、いいや。またにするよ」
 歯切れの悪い言葉を残し、手を振って、アニーはさっさと帰って行ってしまった。
 追いかける理由もなく、ハンスはぽつんと残されてしまう。
「いまの……ハンスさんの彼女ですよね?」
「そ、そ、そんなこと、あるわけないだろう!」
 そうだと信じて疑わない様子の同僚の言葉を、全力で否定した。


 
 数日後、アニーの奇行の原因が判明した。
 アトリエに立ち寄ってもなにやら忙しそうだったアニーが、満面の笑みで本部に訪れた。
「ハーンスー! プレゼント持ってきたよー!」
 それはあまりにも全開の笑顔だったので、ハンスは疑問を口にするのを忘れてしまう。ああ、と間抜けな返事をしてしまった。
 プレゼント、という言葉に記憶を探る。プレゼントをもらえるようなイベントに心当たりはないし、靴や目薬のときのように、アニーになにかを相談した覚えもない。
「えへへ、がんばって作っちゃった。見てみて、その名も『モテモテカフス』!」
「モ……」
 モテモテカフス。
 あまりのネーミングに、視界が暗くなる。なにか怪しいものなのだろうか。つけるとモテるとか。副作用がどうのとか。
 考えていることが丸ごと表情に出てしまったようで、アニーは唇をとがらせた。
「そんな不安そうな顔しないでよー。ふつうのファッションアイテムだよ。この前、いつも制服着ててデートどころじゃないって話してたでしょ。カジュアルデザインのモテモテカフスなら、味気ない制服も、ワンタッチでデートもオーケーな装いに! っていうやつ」
「あ、ああ、そうなのか」
 手渡された紙袋を覗いてみる。複数の銀色のカフスが入っていた。ハンスにはデザイン性のことまでよくわからないが、確かに、若者向けのもののようだ。派手ではない程度の装飾が一つ一つに施されている。ものがいいということは、ハンスにもわかった。
「だが、僕にはこれをもらう理由が……」
 これを作り上げるには素材と労力と……突き詰めれば金が必要だろうということは十分に予想がついた。しかし、アニーはなんでもないことのように笑った。
「いつもお世話になってるから、そのお礼だよ。使って、使って。これをつけて気になる子を誘えば、デートだってうまくいっちゃうよ」
 そういったアニーはまったく邪気のない笑顔で、ハンスは脱力してしまった。
 これをつけてデートに誘う──ハンスがだれとどこでどうデートしようが自分には関係ない、ということなのだろう。それどころか善意の塊で応援してくれるほどだ。そんなことはわかっていたが。
 わかっていたのだが、改めて突きつけられると、ダメージが大きい。
「…………そうか」
 ずっしりとした声でうなずく。アニーがきょとんと首をかしげた。
「あれ、気に入らなかった? おっかしいな、がんばったんだけど」
「い、いや、とてもよい出来だと思う。ありがたく受け取っておくよ」
「うんうん、よかった!」
 アニーは純粋に嬉しそうだ。その様子にため息をついて、ハンスはカフスの一つを手に取った。
 手のなかでもてあそぶ。
 どうしようか──平静を装いつつも、頭のなかでは、葛藤していた。 
 きっと、アニーは気づかない。
 気づかないだろうが──いや、気づかないからこそ、いってしまってもいいかもしれない。
 大きく息を吸い込んで、咳払い。なんでもないことのように、口を開いた。
「じゃあ……次の休日は空いているか、アニー?」
 そのセリフは思ったよりもスムーズに口から流れ出て、いってしまってから心臓が騒ぎだす。
 アニーは目を見開いて、じぃっとこちらを見ている。
 イエスかノーか、それだけのはずなのに、異様に長い沈黙。
「あたし?」
 やがて、心底意外そうに、アニーが自らを指さした。
「い、いや、その、ででで、デートというか、なんというか……せっかくもらったわけだし、お礼に……」
「気になる子を誘えばっていってるのに。ハンスってば、律儀だなあ」
 表情を崩して、アニーは笑った。伝わらなかったことにほっとすると同時に、落胆する。勝手なものだ、と自覚しながらも。
「もちろん、空いてるよ。じゃ、どっか行こうね」
 そう約束して、アニーは本部から出ていった。残されたハンスは、しばらくその場に固まって、やがて魔法がとけたように脱力し、大きく大きく息をつく。
「お、彼女からの差し入れですか! いいなあ」
 根本から誤解しっぱなしの同僚が、そういってはやし立てた。




 休日の「デート」は、予想に違わず採取ツアーとなったのだが。
 モテモテカフスをしっかりとつけて、ハンスは一日中、どこか落ち着かない思いをするのだった──。






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実はアニーも意識しつつ、だったりしたら一気に少女漫画的なことに。
若者向けのカジュアルカフスとか本当にあるみたいです。色々検索してしまいました。

※拍手コメントいただいて初めて知ったのですが、カフスって、カフスボタンではなくてイヤーカフスっぽい……?? な感じです。このお話はカフスボタンだと思い込んで書いてます。イヤーだとすると微妙におかしなことに。

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  Name : 光太朗。
  性別女、またの名を光太朗子。
  『アニーのアトリエ』ハマり中。

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