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恋への墜落 2

アニーを意識し始めたハンス。
というかここから書いてたらゴールはいつなんだ。まったり連載していきます。






*****






『恋への墜落』 2



 一日、午前十一時。
 二日、午後二時。
 三日、──。
 四日、午前十一時半。
 五日、正午。
 六日、午後一時。
 七日、──。
 八日、──。


 九日、現在の時刻、午後一時。

「ハンスさん、どうかしましたか?」
 ぼんやりと時計を見つめていると、ダニエルに声をかけられた。ハンスは慌てて咳払いをし、なんでもないふうを装う。
「いや、別に」
 実際、どうかしたのか、と聞かれたところで、答えようがない。自分でもよくわからないのだ。
 まさか、なにかを待っているということもないはずだ。
「そういえば、今日はアニーさん、来ませんねえ」
 本部の入り口に目をやって、ダニエルがつぶやいた。それだけで心臓が跳ね上がりそうになりながら、ハンスはそうだったかな、などと返す。
「昨日も一昨日も、来てないですよね。どうかしたのかなあ」
「……なぜ、そんなことに詳しいんだ。彼女が来ようが来まいが、関係ないだろう」
「え、あ、そ、そうですけど……」
 ダニエルは慌てて弁解しようとして、結局うつむいてしまった。ハンスはため息を吐き出す。
 なんだか気分が悪い。イライラする、といえばいいのか。
 もう一度、時計を見た。いままでは、二日も来ない日はなかったのに。午後一時までには、用もなく顔を見せに来ていたのに。
「あ、あの、ハンスさん。お昼休み、まだですよね?」
 冷や汗をかきながら、ダニエルが精一杯の気遣いを見せた。そんなことはすっかり忘れていたハンスは、いわれて初めて空腹を思い出す。
「ああ、そうだな。じゃあ、失礼するよ」
 どういうわけか、ほっとしていた。ハンスはダニエルに片手を上げると、足早に本部を後にする。
「……だって、ハンスさん、アニーさんが来ない日は機嫌が悪いじゃないですかァ」
 背後で漏らしたその声は、ハンスまでは届かない。




 扉の前で、逡巡した。
 そもそも、どうして真っ先にここへ来てしまったのだろう。昼食ならレストランに行けばいい。担当委員なのだから来ること事態は不自然ではないが、今日は口実になるような書類も持っていない。
 ──口実? 自分の思考に、疑問符がよぎる。
 ここのところ、ハンスは変だった。それは自覚している。自覚しているが、対処法などわからない。
 とはいえ、いつまでもここでこうしているわけにはいかなかった。
 コンコン、と扉をノックする。すぐに、はぁい、と元気な声が返ってきて、ほっとすると同時に少しむっとした。
 ならば、どうして、二日も来なかったのか。
「失礼する」
 扉を開けると、満面の笑顔のアニーが出迎えた。
 ひどく久しぶりに見る気がして、落ち着かない。何日ぶりだろうか──考えるまでもなかった、会っていないのは、たったの二日だ。
「ハンス、いらっしゃいー! 久しぶり~」
 のんきに笑っている。内心の動揺を押し殺して、ハンスは息をついた。
「そうだったか? 二日会ってないだけだと思ったが」
「あれ、そうだっけ?」
 きょとんとしたその顔に、苦笑した。あたりまえだが、まったく変わっていない。いつものアニーだ。病気をしたというわけでもないらしい。
 ぺぺの姿はない。いつものように、ショップにいるのだろう。
「それで、今日はどうしたの? 課題は……こないだ提出したし。あれ、してない?」
「いや、だいじょうぶだ。その……昼休みのついでに、ちょっと様子を見に」
 苦し紛れに出た言葉だったが、もちろん嘘ではない。アニーは唇をとがらせた。
「信用ないなあ。ここんとこアトリエから一歩も出ないでまじめに調合してるよ。寝不足なぐらいなんだから」
「そ、そうか。それは申し訳ない」
 アトリエから一歩も出ずに──ハンスはその言葉を何度も反芻する。それならば、本部に来ないのもあたりまえだ。なにか特別な理由があって避けられていたわけではないのかと、心底ほっとする。
「そうか、良かった……」
 そういうと、アニーが目をまたたかせる。しまった、と口を押さえると同時に、甲高い音が響いた。きゅるきゅると、細長く。
「わわ、お腹鳴っちゃった。やっと一息ついたから、いまからお昼ご飯なの。ハンスもまだなら、食べてく? 野菜シチューだよ」
「い、いや、僕は……」
 とっさに断ろうとしたが、空腹なのは事実だ。返答に窮していると、アニーがハンスの手を引いた。
「いいじゃん、お昼休みなんでしょ? 一緒に食べた方がおいしいもんね!」
 その笑顔に、くらくらした。逆らえるはずもなく、うなずく。
「ああ、じゃあ、お言葉に甘えて」
「うんうん、そう来なくっちゃ」
 テーブルにつくと、アニーがいそいそと鍋に向かう。シチューの良い香りがしてきて、なおさら空腹を自覚した。

「アニー」
 背中に声をかけると、すぐに振り返った。
「なになに?」
 にこにこと、邪気のない顔で。ハンスは咳払いをする。
「その……最近の調合は、何日もかかるものばかりなのか?」
「えー。そういうのもあるけど、そんなのばっかりじゃないかなー」
 曖昧な返事に、やきもきする。聞きたいのはそれではない。
 ハンスが聞きたいのは、ただ、明日以降も会えない日々が続くのかと、そういうことであって──
「な、なにをバカな」
 自分の思考に、叱咤する。皿を片手に、アニーがやってきた。
「どうしたの、なんか変? 働きすぎなんじゃないの、マジメンスくんは」
「は、働きすぎといったら君の方だろう! 僕は君が──」
 なにをいおうというのか、自分でもわからず、言葉が止まる。
 大きな瞳でこちらを見て、アニーが続きを待っている。
 ハンスは息を飲んだ。
 心配だ、と続ければいいのだろうか。会えなくて寂しい──そんなことは、まさか、ないはずだ。
「き、君が……」
 沈黙が痛い。なんと続けるのが正解なのか、自分でもわからない。

 その瞬間、けたたましい音をたてて、アトリエの扉が開け放たれた。
「やー! これはいい香り! もう昼も過ぎたところだけど、ひょっとしてものすごくいいタイミングで来ちゃったのかな、そうなのかな!?」
「アニー! ぜんぜん姿見せねえから、こっちから来てやったぞ!」
「ハロハロ~、アニー、久しぶり~!」
「わ、いい匂い! なになに、シチュー? あら、ハンスじゃない。邪魔しちゃった?」
 どやどやと押し寄せてきたのは、おなじみの面々だった。少しの間を空けて、行き倒れていたらしい少年と、幸か不幸か道中でそれを拾ってしまったらしいレストランの看板娘もやってくる。
「腹、減っ、った~~」
「アニーお姉ちゃん、最近来てくれない、ですから……来ちゃったです!」
 それほど広いともいえないアトリエに、総勢八人。何の騒ぎだ、とショップからぺぺもやってきて、さらに手狭になる。
「ちょ、ちょっとー! なんなの、みんなして! シチュー、足りないよ!」
 アニーが悲鳴をあげるが、おかまいなしに、彼らは我が家のようにくつろぎ始める。見かねたリーズとフィズが手伝いにまわり、結局は少し遅めの大ランチ大会だ。
「アニーが二日も顔見せないと調子狂うだろうがよ。こっちから出向いてやったんだ、ありがたく思えっ」
 誰よりも偉そうに胸を張り、キルベルトがいい放つ。
 
 つまり──ハンスは、頭の中で情報を整理した。
 毎日のように姿を見せに来ていたのは、なにも本部に限ってのことではなく。
 彼女がいまどうしているのだろう、と気にかけていたのも、無論、ハンスだけではなく──
 ──いや気にかけていたわけではないが、断じて。ハンスは慌てて首を振った。
「あれー、ハンス、なんで不機嫌なの?」
 いつの間にか、仏頂面になっていたらしい。ほかならぬアニーに聞かれ、答えられるはずもない。
「……なんでもない」
 表情を崩すことなく、ハンスはそう返す。得体の知れぬ胸のもやもやが、こうして彼女に気にかけられたことで少しだけ和らいでしまったことも、頑なに否定して。

 

 リヒターゼンの昼下がり。アニーのアトリエは、数日ぶりに賑やかさを取り戻していた。





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ちゃんとした連載の構想もあるのですが、最初がアレだったので、このシリーズはSSベースになりそうです。
どこまでオトメだ、ハンス。


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  Name : 光太朗。
  性別女、またの名を光太朗子。
  『アニーのアトリエ』ハマり中。

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