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『クサイクスリ』

リーズ姉さんがしょうもない薬を作りました。
というお話です。ハンスが相変わらずかわいそうです。






******






『クサイクスリ』



「ねえ、お願い」
 セリフの最後にハートマークが見えた気がした。
 ハンスは考えるまでもなく、即答する。
「イヤです」
「なんで!」
 まさか断られるとは思っていなかった、という顔で、リーズが声をあげた。レストランに呼び出された時点で、どうにか口実を作って断るべきだったのだ──後悔するが、今更だ。なにをのこのこやってきてしまったのだろう、とハンスは頭を抱える。
「ちょっと実験台になってっていってるだけじゃない!」
「そ、それがイヤだっていっているんです! だいたいなんですか……その、『クサイクスリ』、というのは?」
 リーズはにんまりと笑った。それほど長い付き合いではないが、こういうときの彼女がろくでもないことを考えているのはほぼ間違いない。
「名前のとおり、クサイクスリ、よ。もともとは、キザなセリフばっかりいう友人をどうにかしたくて作った薬の副産物。おもしろそ……ええと、ちゃんと効果を知りたいから、飲んで欲しくて」
「いま、しっかり本音が聞こえましたが!?」
「えー、あたしナニかいったかなー」
 白々しくそっぽを向く。
 ハンスはため息を吐き出し、もう話すことはないとばかりに立ち上がった。
「──とにかく、他を当たってください。僕は帰ります」
「ねえ、ハンス」
 リーズは止めなかった。ただ、物憂げな瞳で、ハンスを見上げた。
「あたし、最近、アニーんとこにときどきお泊まりするんだけどさ……あの子かわいいから、ついついいじりたくなっちゃって。恋バナとか、することもあるかも。アニーのこと好きな子だっているんじゃないの、とか話題が出ちゃうかも。そしたら、ついついぽろっと、誰かさんの秘めた想いをいっちゃうこともあるかも──」
「…………」
 ハンスは座り直した。
 選択権がないことが、よくわかった。
「……こ、今回、だけですよ」
「優しーい! さすが! だいじょうぶ、効果は半日だけだから」
 半日も続くのか、とは思ったが、これ以上なにをいってもムダだった。思えば、だまし討ちでこっそり飲まされるよりはマシだ──いや、脅される方がよほどたちが悪いだろうか。もう考える力もない。
「じゃ、よろしくね」
 差し出された小瓶には、茶色の液体。決めてしまったことなのだから、ぐずぐずしていてもしようがない──ハンスは一気に、薬を飲み干した。


 これといって、身体に違和感はなかった。
 あとで感想聞かせてね──リーズにそういわれレストランを出たが、感想といわれてもなにをいえばいいのか。なんの変化も感じない。まさか失敗なのだろうか。
 クサイクスリといっても、飲んだ液体は無臭だった。身体が臭くなってしまう事態を危惧したが、そういうわけでもないらしい。自分では異臭がするとも思わないし、すれ違う町の人々が顔をしかめることもない。
 リーズから、アニーに『おみやげ』を預かっている。まずはアトリエに寄ってそれを渡し、課題の進行状況を確かめなければならない。
 多少の不安を抱えながらも、ハンスはアトリエに向かった。




   *




 ノックをすると、アニーが扉を開けた。
「いらっしゃい、ハンス! 待ってたよ!」
 待ってた、といわれるとは思っておらず、ハンスは面食らう。そんなに会いたいと思っていてくれたのだろうか、とありもしないことをちらりと考え、すぐに首を振った。
 目の前で、アニーが不思議そうな顔をする。
「リーズ姉さんに聞いたから、来てくれたんでしょ? 珍しいお菓子があるから、お茶会しようって」
「あ、ああ……いや」
 彼女の計画は、自分の知らないところでもちゃっかり進行中らしい。もうイヤな予感しかしない。今更ながら、得体の知れない薬を飲むなど、とんでもないことをしてしまったのではないかと冷や汗が垂れる。
 アトリエのテーブルには、真っ白なクロスが敷かれていた。皿やカップの準備も万端で、その数は複数だ。どうやら呼ばれたのが自分だけではないという事実に、ほっとする。二人きりにさせてどうこう、という思惑ではないらしい。かすかに残念な気持ちもあるのも否めないが。
 仏頂面でイスに座っていたぺぺが、よう、と手をあげた。
「本当はこういうことは、修行の邪魔になるからよくないんだけどな。珍しい菓子があるらしいし、せっかくだし……」
 なにやらいいわけを口にするぺぺに、ハンスは苦笑した。 
「これ、リーズさんから」
「わあ、ありがとう」
 手にした包みをアニーに渡すと、頬をほころばせる。その笑顔がいつも以上に胸に響いて、ハンスはとっさに身を引いた。
 心臓のあたりが、熱を持っている。
 まさか、これが、薬の効果なのだろうか。やはりろくでもないものだった──これは早急に帰らなければならない。
 アニーは足早にテーブルへ向かい、包みを開けている。中からは美しくデコレーションされたケーキが飛び出してきて、歓声をあげた。その無邪気な様子が、とにかく、愛しい。

 ハンスは胸を押さえた。危険だ。すぐにこの場を離れなければ、なにをするかわからない。
「あれ、どしたのハンス。見て見て、すごく綺麗なケーキ! おいしそう! すぐお茶いれるからねー」
「いや」
 僕はもう帰らなければ──そう口にするつもりだったのに、思うように口が開かなかった。
 意識とはうらはらに、身体が動く。
 気づくと、アニーの両手をとっていた。
「確かにケーキは美しいが……君のほうがその何倍も、美しい」
 流れ出た言葉に、愕然とした。
 アニーが目を見開いて、唖然としている。ぺぺも同じ表情だ。自分だって同じだったが、しかし止まらなかった。
「いや、ケーキと君を比べるなどと、そもそも間違っている。ケーキは美しく着飾ってこそ、この姿を保っているが──君はそのまま、そこにいるだけで、愛らしく……」
 言葉は止まらず、両手を持ち上げる。
 その手の甲に、ハンスはそっと唇を落とした。
「……僕を魅了してやまないんだ」
 空気が止まった。
 ハンスは内心で、ものすごい悲鳴をあげていた。とんでもない事態に意識が追いつかない。意識が二分されている感覚すらある。このままでは、流されてしまいそうだ。

 アニーは真っ赤な顔をして、小さく首を左右に振った。
 そうして、かろうじてという小ささで、呻く。
「……ハンスがヘンだ!」
 それはまったくもって同意見だった。ぺぺがイスから降りて、ハンスの顔を見上げる。
「おい、どうしたんだハンス。熱か、熱があるのか?」
「あたしがかわいいのはわかってるけど、おかしいよ、ヘンだよ! ハンス、熱なの?」
 ヒドイいわれようだが、少なくとも普段の自分ではないということはわかってもらえているようだ。ここへきてやっとリーズに飲まされた薬の存在を思い出し、弁解しようと試みる。
 
 その瞬間、扉が開け放たれた。
 ノックもなく入ってきたのは、大剣を携えたキルベルトと、眼鏡を光らせたカイルだった。
「おー、来たぞー! メシー! 菓子ー! 腹減ったー!」
「やあアニー。おいしい紅茶を持ってきたよ。お、もう準備万端だね」
 ハンスの胸の奥が、どくりと波打った。
 ふらふらと、キルベルトに歩み寄る。
「お? ハンス、なんだ、どうした?」
 目を丸くするキルベルトを見つめ、その前髪にそっと触れた。
「君のその魂の輝きに満ちあふれた筋肉……意志の強い瞳……さながら混沌とした闇夜に舞い降りた天使のようだ──」
 キルベルトが、固まった。
 そのまま視線を移動させ、やはり目を見開いているカイルに歩み寄る。彼の眼鏡をそっとはずすと、眼鏡に口づけをした。
「輝く瞳を隠してしまうのはもったいない──どうか、この場では、その相貌を僕に見せていてくれないか。神秘的なその光の魔法に、かけられていたいんだ──」
 もう泣きたかった。
 しかし、ハンスのそれは、止まることはなかった。




 恐ろしき『クサイクスリ』──
 クサイセリフをいってしまう薬だということがわかったものの、わかったところでどうすることもできず、ハンスはそれから半日、クサイことをいいつづけたのだという。
  
 





────────────
またこうしてハンスをいじめて、私は一人幸せを感じるわけです(性格悪いなあ。
書いていてとても楽しかったです。もっといろいろクサイこといわせたかった。

その後のエイリズ『クサクナイクスリ』も書いてみました。よろしければ。

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  Name : 光太朗。
  性別女、またの名を光太朗子。
  『アニーのアトリエ』ハマり中。

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