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treasure『この坂を上れば』

平隊員Tさまにいただきました。
サプライズ的なある人が登場します。
相変わらず柔らかくも素敵な空気を漂わせた、平Tクオリティをお楽しみください><





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『この坂を上れば』 BY 平隊員T


 リヒターゼンの街を出て少しばかり歩くと、街とその先に広がる大海を一望出来る小高い丘がある。そこには樹齢数百年になる大きな木があるだけで、他に目を引くものは無い。
 それでも、その絶景を望みに訪れる者も少なからずいる。
 夏の日差し降る午後、いつものエプロンドレスから、麦わら帽子を頭に乗せて春色のワンピースに着替えたフィズは、小さめのバスケットを左に下げて、丘の頂上を目指してその坂道を歩いていた。
 夏の熱線に当てられてか、額や頬には薄っすらと汗をかき、緩やかとは言えどそこは坂道、表情も少々疲労の色を見せている。それでもその先に待つ景色を思い描いているのか、口元は常に笑みを絶やさない。
「はあ、ふう。あと、ちょっと。がんばれー」
 自分自身にエールを送りながら、ゆっくりゆっくり緩やかながら長い坂を上って行く。
 間も無く、フィズの目に大きな木のてっぺんが映り、同時にぱあっと明るい笑顔へと変わった。
 目的地は後少し。フィズは上る足を徐々に速くして行く。途中、つまずきそうになりながらも体勢を直すと、我慢出来ずにいよいよ駆け出した。
 走り出して五分と掛からず丘に立つ大きな木にたどり着くと、すうっと息を吸い込む。
「とーちゃーっく!」
 息を切らせながらそう叫ぶと、両手を広げながら眼前のリヒターゼンの全景と大海を目にし、満面の笑みを浮べる。
 ふう、と一息付くと木の陰に腰を下ろした。
 そこでようやく気付く。少しばかり離れた場所に先客がいた事に。
 一人はその場に似つかわしくないパールピンクのドレス。もう一人もこれまたその場に似つかわしくない黒のスーツ。どうやらスーツ姿の女性はドレス姿の女性のお付の者らしく、フリル付きの可愛らしい日傘を差して夏の日差しから彼女を守っている。
「ごきげんよう、お嬢さん」
 ドレスの女性は少し目を細くすると、低い声でフィズにそう挨拶する。まるで威嚇でもするようなその視線に、フィズは怯える小動物のように肩を縮めた。
「……こ、こんにちは」
 フィズはその女性に見覚えがあった。
 今から数ヶ月も前の事。フィズの店に、彼女は訪れていた。その理由はある男性との縁組での事だ。
 よくある話、彼女が見初めた男性には想う人がすでにおり、お相手がどのような方か、私にもご紹介下さいませ、と。結果だけで言えば彼女は身を引いた。
 その縁談の話はよしとして、それ以来、彼女はたまにフィズの店に顔を出すようになった。そして、訪れては溜息を漏らしている。
「あなた、あのお店のウェイトスの娘(こ)だったかしら。名前を伺っても?」
「……フィズ……、です」
 その名を聞くと女性はにこりと微笑んだ。その笑顔は以外な程に柔らかなもので、フィズは息を呑んだ。
「隣、よろしくて?」
「ど、どうぞ、です」
 これと言って変わった行動ではないのだが、ただ腰を下ろそうというその仕草、それ自体が非常に優雅。貴族の持つ独特な雰囲気によるものだろう。
「なにか?」
「あ、いえ。……別に」
 顔を眺められていた事に気付いた女性がそう聞くと、フィズはとっさに顔を伏せた。
「まだ名乗っておりませんでしたわね。私、レシティアと申します。こちらは使用人のサマンよ」
 レシティアに紹介を受けたお付のサマンは、紳士の仕草で一礼して見せた。凛々しい顔、その姿、立ち居振る舞いはまさに紳士。唯一、胸元のふくらみが女性らしさを見せている。
「あの……、ここへはよく来るんですか?」
「ええ、そうね。この坂道をずっと上って行くと別荘がありますの。この時期は別荘で過ごしているから、ここへは、そうね、ほぼ毎日足を運んでいますわ」
 そう言われ、フィズは坂道の方を向いた。視線を徐々に上へ持って行くと、その頂上付近に一軒家が確かに見えた。その距離は、ふもとからここまでの距離とほぼ同じ。随分な距離がある。
 別荘。自分には全く関係の無い言葉だ、とフィズは思わず溜息を吐いた。
「ねえ、あなた。好きな方はいるのかしら?」
「――えっ?」
 あまりに唐突な質問に間の抜けた声で返すと、それがおかしかったのかレシティアは口元を隠しながらくすくす笑った。
「そんなに笑わなくてもいいのに……」
「ふふ。ごめんなさい」
 フィズは、あなたにはいるのかと聞こうとしたが、すぐにそれを止めた。もし、今でもあの方の事が忘れられない、と返されようものなら気まずくなってしまうと思ったからだ。
 フィズがなにを言おうとしたのか気付いたのか、レシティアは小さく息を吐いて間を置くと、ゆっくりと話し始めた。
「実を言いますと、彼、ハンスさん、と言ったわね。彼との縁組は私の本意ではなかったの。両親が私の知らぬ間に強引に進めていた話だったのよ。正直に言いますと、彼とアニーさん、だったかしら? あの方とで恋人のフリをするようにリーズ様に頼んだのは、私なのよ」
 なかなか面白い事にならない二人に我慢ならなくなったリーズが、レシティアに一芝居打つように頼んでいた、という事をフィズはあの後聞かされたわけだが、事実は少々違っていたらしい。
「今あなた、そんな芝居組まなくても両親に言って断ればいいのに、って思ったのではなくて? それが出来れば……簡単なんですけども」
 あの時あの場には、レシティアを見守るいくつもの目があった。彼女はあの場で「振られる」のではなく、「振らなくてはならなかった」のだ。
 二人の仲に嫌気を感じ、あの場を立ち去る。そう演出しなければならなかった。そのためにも、アニーとハンスには出来る限り仲の良いカップルを演じてもらわなければならなかった。
 恋人ごっこの内容は目も当てられない茶番劇ではあったものの、仲の良さは周りにも十分理解出来るものではあった。結果、レシティアはハンスを見事「振る」事に成功した。
 もしレシティアが振られていたらどうなったか。ハンスは話を持ち掛けた上司
の顔を潰したとなり、それ相応の罰を与えられていたはずだ。最悪、委員から外され、本土へ強制送還。あげく名も知れぬ異国の地に飛ばされていたかもしれない。
 ただ断るだけでも随分と面倒なもの、とレシティアは溜息混じりに話した。
「思うままに恋が出来るあなた方が、羨ましい」
 まるでいじける子供のようにレシティアは膝を抱えて背を丸めると、ふうと息を吐いて顔を伏せた。
 そんな彼女の態度に母性をくすぐられたのか、フィズは自分でも気付かないうちにレシティアの頭を撫でていた。
「慰めてくれるのね。……ありがとう」
「……え、と……」
 彼女の言葉に撫でていた手を止めたが、それでも今更戻す事が出来ず、苦笑しつつも再び綺麗な金色の髪を優しく撫でた。


 数時間後。肌を撫でる海風が少しばかり冷たく感じ始めた頃――。
「ねえフィズ。小指を立てて、こちらに向けて」
 言われるままフィズは右手の小指を立てると、レシティアに見せる。そこへ彼女の小指がそっと重なる。
「約束」
「約束?」
 少しばかり西に傾き始めた陽の光が、レシティアの微笑みを照らし出す。
「縁談の裏の話と、それから、あなたにちょっとだけ甘えてしまった事。他の方に言ってはダメよ?」
 フィズは元気良くうなずくと、レシティアに負けないくらいに明るい笑みを見せた。



※※※



 夏の日差し降る午後、少女が一人小高い丘の坂道を上って行く。
 ふいに吹き抜けた風には、真夏の頃よりも僅かに涼しさを感じられる。
 麦わら帽子が風で飛ばされないよう左手で押さえながら空を見上げ、輝く太陽を眺めて優しく微笑んだ。
 夏の終わりを知らせているのだろう、陽の光は随分と柔らかくなっていた。







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びっくり出演は、 『恋人ごっこ』のレシティアさんでした。いいヒトだ! 素敵な女性だ、レシティアさん!!
そして相変わらず、平隊員Tさまのフィズはかわいいです。このかわいさ。妹にしたい。
アニアトSSというよりリヒターゼンSS、とご本人がおっしゃっていますが、その雰囲気はわかるような気がします。この優しい空気。素敵です。
平隊員Tさま、癒しのSSをありがとうございました!


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  Name : 光太朗。
  性別女、またの名を光太朗子。
  『アニーのアトリエ』ハマり中。

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