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恋への墜落 1

こんなことがきっかけで、ハンスがアニーを気にし始めるとかどうだろう、という妄想です。
ハンスがオトメンス。

※10月5日、SSからLONGにお引っ越ししました。






*****





『恋への墜落』



 ハンスの頭の中は、ある少女のことで埋め尽くされていた。
 決して、良い意味ではない。
 甘いニュアンスでもない。
 いうならば、悩みの種。


「また、いない……」
 もぬけの殻のアトリエに呆然と立ちつくし、ハンスは頭を抱えた。
 これで何度目だろう。
 今頃は、街のどこかをアニーが逃げ回り、ぺぺがそれを追っているに違いない。
 放っておいても、そのうちに捕獲されて帰ってくるだろう。
 だが、それでは、仕事がスムーズに進まないのだ──ハンスの仕事でさえもその状況なので、錬金術の修行が進んでいるはずもないだろう。

 彼女の前評判は、たいしたものだった。エントリー期間を過ぎてからねじ込まれた大会参加者。ハンスが担当することも急遽決まり、委員会の間で話題になった。一体どんな凄腕の錬金術師が来るのかと。
 高名な錬金術師の孫──しかも女性ということで、当時のハンスの緊張は計り知れない。眠れぬ夜を過ごしたものだ。
 しかし、実際に大会が始まり、良くも悪くもハンスの予想は覆された。まず指定の場所にすら来ない、怠惰を絵に描いたようにやる気がない、しかも錬金術についてはまるで初心者──さらに、夢は玉の輿だとかなんとか。
 大会が始まって数ヶ月経ったいまでも、こうして逃げ回っている。
 彼女がいわゆる悪人でないことはわかる。悪気がないのだろうということも、わかっている。
 だからこそ、余計にたちが悪い。
「うう……」
 キリキリと痛む胃を押さえた。三年間、このままやっていけるのだろうか。最近では、夢の中にまでアニーが出てくる始末。悪夢だ。



   *



「ハーンス! デートしよ!」
 珍しく本部までやってきたかと思えば、アニーは全開の笑顔でそういった。
 書類の束を置き、ハンスはため息を吐き出す。本気でないことはわかるが、それにしてもどうしたものか。
「寝言をいってるヒマがあったら、錬金術の修行でもしたらどうだ」
「だからー、その錬金術の素材を採りに行きたいんだよ。一人でもだいじょうぶだと思うけど、たまにはこうして親交を深めようかなぁ、って」
「採取なら採取といってくれ」
 ほとんど予想通りの展開だった。だが、親交を深める、というのが意外で、ハンスはアニーを見る。にこにこ、というよりはへらへらとしているその表情は、あまり深い考えがあるようには見えない。
 口実だろう、と結論づけた。
 どうせ荷物持ちか何かだ。
「仕方ないな。長期間は無理だが、少しなら。他にメンバーは?」
「ハンスだけだよ。滝つぼだし、慣れてるでしょ? すぐ帰るから、だいじょうぶ!」
「了解」
 渋々ながらも承諾し、ハンスは腰を上げた。

 

 持ってくれとはいわれなかったが、そこは男性の義務だ。ハンスはアニーからかごを受け取ると、それを背負って無言で歩いた。
 仏頂面で、黙々と。
 それは、滝つぼに着いてからも変わらない。
「やりにくいなあ、マジメンスくん。そんなんじゃテンション上がんないよ。もっとこう、効率よく採取できるようにさ、歌でも歌ってよ。応援歌」
「なんだそれは」
 ハンスはため息を吐き出した。冗談としても質が悪い。
「どうせあれでしょ。帰ったらあの仕事とこの仕事と、それからあっちの仕事と……とかなんとか、頭の中でシミュレーションしてるんでしょ」
 アニーの指摘に、目をまたたかせる。そこまで見抜かれているとは思っておらず、それは多少の驚きだった。
「まあ、そうだな」
「マジメー」
 素直にうなずくと、アニーが呆れたような顔をする。呆れているのはこっちだ、といってもよかったのだが、ハンスは黙って息をついた。余計な時間を使うこともない。
 
 いつもの採取場所で多少の草を採ったかと思うと、アニーはずんずんと歩いていった。いぶかしく思いながらも、おとなしくついて行く。
 どんどん人気のない方向へと進んでいき、何か企んでいるのだろうか、と不安がよぎる。採取でこんな奥まったところまで来るのは初めてだ。
 やがて、アニーは足を止めた。
「ここ、ここ」
 いたずらっ子のように笑って、身をかがめる。草を掻き分けた向こう側に洞穴が見えて、ハンスは息を飲んだ。
「すごいな。自然の洞窟か?」
「すごいでしょ。入り口は狭いけど、中は結構広いよ。この前見つけたんだ」
 ためらわず、アニーは身体を小さくして、穴の中に入っていった。制止しようとする声も間に合わず、あっという間に姿を消してしまう。
 迷う必要はなかった。ハンスはかごを先に押し込むと、自身も穴の中に身体を入れた。

 窮屈な入り口を抜けた先は、別世界だった。
「────!」
 驚きは、声にならなかった。
 湿った岩肌は、ハンスの身長よりも高い位置で天井を作っていた。ほとんど閉ざされた世界だというのに、ぼんやりとした灯りに包まれている。
 ヒカリゴケだ。
 淡い黄緑色の光を発するコケが、まるでささやかな照明のように、ひどく幻想的に、小さな空間を光で包んでいた。
「すごい……」
「でしょ!」
 やっと声を出すと、アニーが誇らしげに両手を腰に当てる。
 それから右手を持ち上げ、ハンスの眉間に人差し指を突きつけた。
「ほら、やっと取れた。これ、取りたかったんだよね」
 そのまま、ぐりぐりと眉間を押す。痛みに顔をしかめ、なんのことかわからず、ハンスは身を引いた。
「取りたかったって、何を」
「しわだよ、しわ。ハンスってば、いつもここにしわ寄ってるでしょ。お仕事、忙しいんだろうけどさ」
 ハンスは目を見開いて、言葉を失ってしまった。
 まさか、そのために、こうして。
 眉間のしわが一体誰のせいなのかとか、連れ出す前にまず錬金術をしっかりしてくれとか──そんな言葉がよぎったが、すべて飲み込んでしまった。
 ふ、と笑みが漏れる。
「まったく、君は……」
「イイヤツ、でしょ?」
 アニーが、笑顔を見せる。

 瞬間、小さな何かが、ハンスの胸に生まれた。
 思わず、一歩、下がった。アニーから距離を取る。
「え、どしたの。なに?」
「あ、いや、別に」
 どもってしまう。アニーは大きな目に不思議そうな色を浮かべ、それからニヤリと笑った。
「もしかして、かわいいアニーちゃんと二人っきりで、緊張しちゃう?」
「な、何をバカな! 他の女性じゃなくて良かったと思っていたところだ。こ、こんなところに二人っきりというのは、確かによくないからな」
 思うよりも早く、口が動く。違う、と思うが、何が違うのかはわからない。
 はいはい、とアニーは肩をすくめた。
「わかってますよー。そのうちものすごいキレイ大爆発な女の人になって、ハンスをドキドキさせてやるっ」
 わけのわからない決意をつぶやいている。しかし、ハンスは気が気じゃない。
 まるで、自分ではなくなってしまったかのようだ。
 アニーは間違いなく、いつものアニーだ。おかしいのは、自分だ。
 まさか、この洞窟に、何か仕掛けがあったのだろうか。

「せっかくだから、ちょっとここでゆっくりしようよ。空気もひんやりしてて、気持ちいいし。実はお菓子持ってきてるんだ。食べるでしょ?」
 自分だけさっさと切り替えて、アニーはちょこんと座り込んだ。コケのない壁を選んだのだろう、何もない岩肌にもたれかかる。
 ハンスは、動けない。
「どうしたの? こっちおいでよ」
「い……いや、出よう。こういう場所は危険だ。何かの拍子に入り口がふさがれでもしたら……」
 自分でもよくわからない、いいわけじみた言葉が出てきた。アニーが不思議そうな顔をする。
「何いってんの。あたしは何度か来てるし、だいじょうぶだよ。ハンス、なんか変だよ?」
「変じゃない! 変じゃないが……」
 変、なのは間違いなかったが、それを認めるわけにはいかなかった。ハンスは、じりじりと後退する。
 しびれを切らしたように、アニーが立ち上がった。
「もー! いいから、こっちにおいでってば!」
 細い、小さな手が、ハンスの腕をつかむ。
 ハンスはもう、飛び上がりそうだった。
「うわあああ!」
 あろうことか、叫んだ。慌てて手をふりほどく。
「……なに、その反応」
 アニーの表情が、怒りを帯びる。しまった、と思うと同時に、いっそ怒ってくれた方が楽だとも思う。このままでは、どうしようもない。
「もう! じゃあ、帰る!」
 アニーは憤然と、洞窟から出て行った。胸をなで下ろし、ハンスも続く。
 きっと、あの狭い空間のせいだ。
 それだけのことだ。


 洞窟の外では、見慣れた滝つぼが二人を待っていた。
 遅れて出てきたハンスを待ちかまえ、アニーがびしりと手套を下ろす。
 決して痛くはなかったが、ハンスは頭を押さえた。これは罰だ──きっと、何かの。
「狭いとこ苦手なら苦手って、そういってよ。なんか悪いことしちゃったみたいでしょ」
 頬を膨らませて、アニーがそんなことをいってくる。
 そうではない、といおうとしたが、では代わりになんといえばいいというのか。ハンスが黙っていると、アニーは呆れたように肩をすくめて、それから笑った。
「次は、森にピクニックとか、ね」
 全身が揺れたかのようだった。
 これはもう、決定打だ。
 笑顔と同時に、脳髄を走り抜けた衝撃──もはや、疑いようもない。




 それが始まりだったのか、その前から始まっていたのか──
 ハンスの頭の中は、ある少女のことで埋め尽くされたまま。

 悩みの種であることは変わらず──けれど、もっともっと、甘い、想い。 
 
 
 







────────────
このままシリーズ化して、付き合うまでの流れをやりたいと思います。短編ベースで。
もちろん元ネタはゲームのイベントですが、もはや元ネタとはいえないぐらいいじり倒してしまいました。


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  Name : 光太朗。
  性別女、またの名を光太朗子。
  『アニーのアトリエ』ハマり中。

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