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『痴漢騒動』

前回の反動か、コメディコメディしたものが書きたくなりました。
甘くないです、ごめんなさい。






*****






『痴漢騒動』



「うぅ、これってすっごく居心地悪いよ……!」
 ハンスの腕に自らのそれをからませ、ぴたりと身を寄せながら、アニーが呻いた。頬が赤く、緊張のためか羞恥のためか、その身体は熱を帯びている。薄手のワンピース一枚では、それがダイレクトに伝わってきて、ハンスはうまく返事をすることができない。
 これは仕事だ、調査だ、委員会の責務だ──とかなんとか思ってみるものの、腕から伝わってくるぬくもりに、意識はどこかへ飛んでしまいそうだった。
 彼女の身体は、あまりにも柔らかかった。集中力を奪うには、充分すぎる破壊力。
 しかも、場所は夜の公園。あちらこちらに、身を寄せ合う恋人たちの姿。二人も恋人同士を装っているため、こうして密着しているわけだが、それにしてもどうしてこんなことに──ハンスは心の中で頭を抱えた。

「ねえハンス、どうしよう。目のやり場に困るよ」
 とかいいながらも、アニーはしっかりと密着する男女に見入っていた。興味津々と顔に書いてある。瞬きすらしていない。
 ハンスは咳払いをして、アニーの腕を引いた。
「あまりじろじろ見るものじゃない。君には羞恥心というものがないのか」
「羞恥心がないのはあっちでしょー。だって気になるよ。わ、うわ、ちゅうした! いま、ちゅうしたよ!」
「そ、そんな報告はいらないから」
 アニーに触れている部分がむずむずした。仕事、仕事、仕事……呪文のように、必死に唱える。
 アニーのいうとおり、目のやり場に困るのは確かだった。ハンスは目の前の空間に焦点を定め、決まった歩幅で足を動かす。
 そもそも、どうしてこんなに人が多いのか──気が重くなるばかりだ。
 痴漢騒動のことを、知らないわけではないだろうに。


 公園に痴漢が出る──そんな情報が寄せられ始めたのは、つい最近のことだった。時を同じくして、ハンスは被害者から、アニーは公園を管理するクララから話を聞いた。その後、やはり被害にあった人物や、噂を聞きつけた住民たちから、なんとかしてくれ、の声。
 狙われるのは、カップルの片割れ。男性は背後から殴られ、その隙に女性が身体を触られる。時間にしてほんの数秒、足や腕を触り、あっという間に姿を消すのだという。
 行為自体を取り上げれば痴漢とはいえないほどだが、実際に被害を受けた人物が痴漢行為だというのなら、それは紛れもなく『痴漢』だ。男を殴るというのもたちが悪い。とはいえ、だれも姿をはっきりと見ていないことから、幽霊のしわざだ、などという声もあった。
 本来、こういうことには、騎士が動く。
 だが、信憑性が低いことと、「不快だった」という以外の具体的な被害がないことから、とりあえずは調査をせねばなるまいと、委員会がかりだされた。あたしの公園なんだから人任せにはできないよ、とアニーも同行。

 実際にこうして二人で公園に来ることになるまでには、無数の抜け道があったような気もするのだが、あれよあれよと、この事態。
 ハンスは、陰謀の匂いを感じていた。
 ハンスとアニーの『デート』服を、リーズとカイルが用意したというのも、胡散臭いことこの上ない。単に面白がっているだけならまだしも、それ以上の何かを感じる。
「どうしたの、ハンス。考えごと?」
 きゅ、っと腕を引くようにして、上目遣いでアニーがいう。
 ハンスの思考はぶっつりと途切れた。
「いや、何も」
 否定してから、何かを考えていたような気もしたが、もはや思い出せない。いっぱいいっぱいだ。
 実際、今日のアニーは大変かわいらしかった。
 リーズの手によるメイクは、ナチュラルながらも女性らしさを強調し、何より、痴漢をおびき寄せることを目的としたワンピースは、ノースリーブにミニスカートで心臓に悪い。
 恋人らしさを演出するなら、腕を組まなきゃね──そうリーズにいわれたらしいアニーは、素直にずっと腕をからませている。
 頭の芯が沸騰しそうだった。
 このまま仕事のことを忘れて、寮に連れ帰ってしまいたい。もちろん、そんなことを切り出す余裕などあるはずもなかったが。

「痴漢、本当にいるのかな。幽霊だったらやだなぁ。生身の人間でもヤだけど」
 そういわれて、どうにか意識を引き戻した。ハンスは自らをたしなめるように、首を左右に振る。
「幽霊など、いるわけがないだろう。痴漢がいるとしたら、人間だ。動物、というのも考えにくい」
「うう、ちょっと怖いよね。──ううん、だめだめ、ちゃんと捕まえないとね! そのために来たんだから!」
 なにやら闘志を燃やすアニーに、ハンスの不安がつのる。いっても無駄と思いつつ、一応、いった。
「僕たちの役目は、痴漢が本当にいるのかどうかをこの目で確かめることであって、捕まえることじゃない。危険なことはしないでくれよ。……わかってるか?」
「うんうん、わかってる、わかってる」
 わかっていないな、とハンスは確信する。もし目の前に痴漢が現れたら、飛びかかっていきそうだ。
  
「今日はいまのところ、被害は出てないみたいだね。おっかしいな、こんなかわいい子が歩いてるのに、どうして狙われないのかな」
 アニーがつぶやいて、ハンスは返答に詰まった。まさか本当に、狙われたいのだろうか。
 実際に痴漢を目にするということは、痴漢にあうか、そうでなくとも、危険な目にあうか──どちらにしろ、喜ばしいことではない。
「ちょっと離れてさ、痴漢おびき出すってのは、どう? ハンスがものすごい隙を見せるとか」
「……君がそこまでする必要はないだろう」
「だって、そのために来たのにー」
 アニーが、ぶぅ、と頬を膨らませる。うっかりかわいいと思いながら、ハンスは不機嫌な顔を作った。
「君は、痴漢にあうということがどういうことか、わかっているのか?」
「わかってるよ。でも、その前に捕まえるよ。なに、もしかして、男の子みたいだから痴漢なんて出て来るはずがないっていいたいの?」
 唇を尖らせて、非難がましい目を向けてくる。どうしてそういう話になるのかと、ハンスは嘆息した。
「いや、今日の君なら、その心配はない。ちゃんと……」
「かわいい?」
 思いの外、食いついてきた。
 え、とハンスが固まる。
「いや、いまはそういう話じゃ」
「かわいくない?」
「いやだから、それは……」
「いいよ、そんなあからさまに困らなくても」
 怒ったような顔をして、アニーが目をそらす。違う、といおうとするが、言葉にならない。かわいい、よく似合っている、男の子みたいだなんてそんなこと──いくつかのセリフが脳裏をよぎり、そのまま通り過ぎた。

「でも、今日出るんだったら、やっぱり他じゃなくて、あたしたちを狙ってほしいよね。せっかく、みんな楽しそうなんだもん」
 少し抑えたトーンで、アニーがそんなことをいう。そうだな、というわけにもいかなかったが、アニーの気持ちもわかったので、ハンスは曖昧にうなずいた。
 痴漢騒動の話を聞いたとき、アニーはひどくショックを受けていた。みんなが楽しく過ごす場所なのに、と唇を噛んでいたのを、覚えている。よほど憤っているのだろう。
 売り上げにも響くしな、というぺぺの言葉にも、そういう問題じゃないと本気で怒っていたのを思い出す。彼女がそこまで怒ることは、実は珍しい。だからこそ、ハンスも、アニーの同行を断りきれなかった。

「……なんだ?」
 ふと、ハンスは足を止めた。つんのめるようにして、アニーもそれに倣う。
 意識的に人気のない方へと進んでいたこともあり、周りには誰もいない。月明かりは頼りなく、所々に設置されている灯りもほんのわずかな周囲を照らすばかりで、景色はひどく限定される。
 そんな中で、確かに、何かの気配を感じた。
「何かいるよ……モンスター?」
「しっ」
 ハンスは、アニーをかばうように彼女の前に立った。隠し持った武器に手を伸ばし、息をのむ。
 しかし、それが、災いした。
「きゃっ」
 悲鳴を上げたのはアニーだった。まず男である自分が襲われると思っていたハンスは、反応が遅れる。振り向くと、アニーが後頭部を押さえてうずくまっている。
 痴漢じゃないのか? ──そんな可能性がよぎると同時に、何か冷たいものが、ハンスの手に触れた。
 正確には、撫で上げた。肌に吸い付くようにして、ゆっくりと、慎重に。
「────っ」
 ハンスが声にならない悲鳴をあげる。一気に鳥肌がたち、払いのけようとするが、それよりも早く、冷たい感触は足に移った。ズボンを履いているその上から、形を確かめるように、撫でていく。
「な……っ」
「出たなっ、痴漢! 食らえっ、『生きてるナワ』──!」
 アニーの叫び声と同時に、ナワが投げつけられる。ナワはまさに生き物のように飛びかかり、それを捕らえた。

 捕縛され、ぎちぎちと動くそれに、ハンスは絶句した。
 それは、痴『漢』ではなかった。
 モンスターでもない。
 生き物なのかどうかも、怪しかった。
「き、機械……?」
 信じられない気持ちで、つぶやく。金属でできた人の顔ほどの球体から、四本の棒状のものが延びている。おそらくは手足なのだろうが、ヒト、というよりは虫に近い。目にあたる部分なのか、球体の中心にはレンズがあった。
 アニーが憤然と立ち上がり、小さなそれを足蹴にした。
「どうして、あたしじゃなくて、ハンスなの!」
 もろもろの恨みよりも、そこが一番勝ったらしい。アニーは目をつり上げて、両手で球体を掴むと、正面から睨みつけた。
「納得のいく説明をしてもらおうか……!」
 鬼のような形相だ。ふい、とハンスは目をそらす。アニーのショックも大きかろうが、自分のショックはそれの比ではないのだと、泣きそうになるのをこらえる。
 金属の球体は、レンズの目を光らせた。じ、とアニーを凝視するような沈黙を挟み、
「男性、女性、比率、六対四。ギリギリ、男性」
 あろうことか、しゃべった。
 同じ音程の抑揚のない声だったが、そんなことよりも内容の方が問題だったのだろう、アニーが力の限り球体の首──くびれている部分はないので、むしろ一番大きな部分だが──を締め付ける。
「ギリギリ男性ぃぃ──!? じゃあ、ハンスはどうなるのっ」
「や、やめてくれ」
 ハンスは本気で止めた。そんな数値は聞きたくない。
「訂正、エラー。再度検証し、マス」
 球体がしゃべる。再び、沈黙。
 ぎち、と音をたてたかと思うと、球体ははじけるように跳ねて、生きてるナワをいとも簡単に引きちぎった。
 棒状の手を伸ばし、アニーの胸をわしづかむ。
「訂正、僅差で、女性」
「────っ」
「この……っ」
 アニーの息を吸い込むような悲鳴と、ハンスの怒りの声。しかしそれよりも若干早く、網が投げられた。
 生きているかのように球体を丸ごと覆ったそれは、指の鳴る音に反応して、ぎゅっと縮まる。間髪入れずに生きてるナワが三本投げ込まれ、球体は今度こそどうにもならないほどに、がんじがらめに捕らえられた。
「よし! 確保!」
 草むらから勝利の声をあげたのは、リーズだった。
「この痴漢め! 悪党め! 人類の敵め!」
 そんなことをいいながら、カイルが飛び出してくる。カイルは大きな箱の中にものすごい敏捷性で球体を押し込むと、すちゃっ、と右手を額に当てた。
「これで、公園の平和は守られたね! いやあ、よかった!」
「いいことするって気持ちいいね! じゃ、あたしたちはこれで!」
 同じポーズで、リーズが続ける。
 宣言通り、二人はあっという間に見えなくなってしまった。 


 残されたハンスとアニーは、呆然と、二人が消えた方向を見るばかりだ。一体、何だったというのか。
「うぅ」
 アニーが泣きそうな声を出し、ハンスはやっと我に返る。ギリギリ男性だと言われたあげくに胸を触られたアニーのショックは、どうやっても想像できなかったが──それでも、ハンスの中には怒りがあり、ほんの少しの逡巡の後、アニーの頭に手を乗せた。
「……忘れよう」
 お互いに。
 切実に、そう告げる。
 こくりとうなずいて、アニーはハンスにしがみついた。ぐりぐりと、胸元に顔を押しつける。
 その行動にどんな意味があるのかわからないながらも、ハンスは固まるしかない。頭に乗せてしまった手は硬直し、もう一方の手は宙で止まった。
「あ、アニー……?」
「でも」
 アニーは顔を上げた。いつもの顔で、笑ってみせる。
「良かったよね、とりあえず」
「……ああ、そうだな」
 ハンスも笑って、今度はアニーの頭を撫でる。アニーはくすぐったそうに首を傾けた。
 その無防備な表情に、たまらなくなって、ハンスはアニーを抱きしめた。華奢な肢体を腕の中に閉じこめ、ぎゅう、と力を込める。
「ええと……あれ? ハンス?」
 困惑を含んだ声に、我に返る。
 勢いに任せて、一体何をしてしまっているのか。
「はっ、あ、いや……」
 ハンスは慌てて手を離した。弁解するように両手を振る。
「もしかしたら本当に男性なのでは、と……」
 あろうことか、口から出たいいわけはそれだった。
 アニーの目が、すっと細められる。全身からは冷気すら漂った。
「ふぅぅん、そう」
 恐ろしいほどの笑顔を見せて、ゆっくりと、ナワを取り出す。
 それがどういったナワなのか、ハンスにもすぐにわかった。もう一本持っていたらしい。
「あ、アニー……?」
 アニーは何もいわなかった。ただ静かに、手にしたナワを解き放った。



 後日、『痴漢』は、カイルとリーズが結託──提案したのはカイルで、リーズは金に目がくらんだのだと主張──し作り上げた、『錬金術と機械の夢の競演! 一家に一台お世話ロボット』の失敗作だったという事実が発覚。
 しかし、できるだけその件を忘れたかったアニーは、それについては特に触れず。
 クララに発見されるまで公園に転がっていたハンスは、生還後も、しばらくアニーに口を聞いてもらえなかったのだという。








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これといってまったく甘くないドタバタでした。
う~~んっ。
次はいつになるやら、です><

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  Name : 光太朗。
  性別女、またの名を光太朗子。
  『アニーのアトリエ』ハマり中。

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