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『お怒りハンス』

ハンアニ、お付き合いしているという設定です。
後半、結構いちゃつくので、苦手な人はご注意くださいましましまし……っ。






*****





『お怒りハンス』



「フられたらしいぜ」
 見回りの最中、街道で、ハンスはそんな噂を耳にした。リヒターゼンは今日も平和だ──そんなことを思いながら、通り過ぎようとする。
 しかし、足が止まった。
「え、アニーにか? フられたってのは、意外だな」
「オレはちょっとほっとしたよ。アニーちゃんがあんな金持ちの坊ちゃんに持ってかれたんじゃな。ショップに行く楽しみがなくなるだろ」
「そんなにかわいいか? まあ、島に来た頃に比べれば……」
「わかんないやつは、わかんなくていいんだよ。付き合ってるヤツがいるっていう断り方じゃなかったらしいから、オレもアタックしてみるかなー」
「――失礼ですが」
 ハンスは、会話を続ける男性二人を呼び止めた。あくまで、にこやかに。目が笑っていないが、そこまで求められても困る。
 爆発しないだけで精一杯だ。
「その話を、もう少し詳しく、よろしいですか」
 なんでだよ、というツッコミをものともせず、ハンスは小一時間かけて、根ほり葉ほりを聞き出した。


   *


 満面の笑顔で、アニーは忙しく動いていた。珍しくアトリエの掃除も完璧――主にぺぺがやったのは言うまでもないが――、特製ケーキもおいしく完成。お気に入りのハーブティも、あとは湯を注ぐだけ。
 見回りの後で、彼はアトリエに寄るといっていた。
 きっともうすぐだろう――そわそわしながら、立ったり座ったりを繰り返す。
 
 コンコン、と戸がノックされた。
 アニーは文字通り跳ねて、はあい、と声を返す。愛しの彼を迎えるために、戸を開けて――
 ――閉めちゃおうかな、と思った。
 笑顔のハンスが立っていた。
 アニーは知っている。この笑顔は、楽しいときのそれではない。決して。
「な、何を怒っていらっしゃいますのでしょうか」
 楽しみにしていた気持ちが沈んでしまって、アニーはおずおずと尋ねる。それには答えず、ハンスはアトリエに入ってきた。
「町で、噂を聞いたんだが」
 アニーの手を取り、ハンスが戸を閉める。
「島でも有名な金持ちに求婚されたそうだな?」
「え、噂? そんなこと噂になってるの?」
 驚きのままに声をあげると、ハンスの目がすっと細くなる。しまった、対応を間違えた、とアニーは慌てて弁解した。
「もちろん、断ったよ、ちゃんと! そういう噂だったでしょ? お仕事で会ったことがあるだけだったし、そんなこと急に言われても困るし……」
「仕事で会ったことがあるだけだし、急に言われても困る、し?」
 ハンスはもう笑っていなかった。アニーの言葉をそのまま繰り返し、握る手に力を込める。
「い、痛いよ、ハンス」 
 助けを求めるが、解放される気配はない。
「噂は、こうだった――その男は錬金術師アニーにフられたが、アニーにすでに相手がいるという断り方ではなかった、と」
「そ、そうだったかな」
「アニー」
 ハンスの声が低くなる。距離がぐっと近くなり、アニーはじりじりと後退した。しかし、腕が掴まれ、思うようにいかない。
「僕が何を怒っているか、わかるな?」
 それは、十分にわかった。アニーはほとんど泣きそうになりながら、何度も首を縦に振る。
「だって、お付き合いしている人がいるからムリですって断り方は、なんか違うと思ったんだよ。そうじゃないでしょ?」
「僕は君と、お付き合いしているつもりだったんだが」
「だから、大好きな人がいるから、ごめんなさいって、そう言ったの! そんないけないことだなんて思わなくて。ごめん、ハンス!」
 うつむいて、勢いのままにそう告げると、ハンスが黙った。
 怒号が飛んで来ると思っていたアニーは、どきどきしながら、時を待つ。
 おそるおそる、ハンスを見上げた。
 ハンスは鳩が豆鉄砲を食らったような顔をしていた。頬が少し赤い。
 あれ、とアニーはまばたきをする。予想と違う展開だ。
 ハンスは、息を吐き出した。
「まったく、君は……。そういうときには、ちゃんと、僕の名を出してくれ。なんなら僕が代わりに断ろう。心配なんだ、これでも」
「え、それって……」
 アニーは首を傾げ、それから瞳を輝かせた。
「もしかして、ちょっと、嫉妬?」
 これでもかとわくわくして、尋ねる。聞いておきながらも、アニーにはハンスの答えがわかっていた。心配してくれたというのも間違いではないだろうが、怒っていた事実と、嫉妬とは無関係ではないだろう。
「ちょっとじゃない、嫉妬だ。悪かったな」
 ハンスはアニーから手を離し、そっぽを向いてしまう。アニーは吹きだして、ハンスの両手を取った。
「座ってよ、お茶の準備できてるよ。今日はケーキを焼いたの。食べるでしょ?」
「ああ」
 ハンスはうなずいて、テーブルにつく。その様子に気を良くしながら、アニーはティーポットに湯を注いだ。鼻歌混じりに、ハーブティーを入れる。

 ハンスに差し出して、気づいた。
 どうやら、ハンスはまだ、怒りがなくなったというわけではないらしい。仏頂面で座っている。
「まだ怒ってるのー?」
 ぶー、と頬を膨らませた。顔色をうかがいながら、ハンスの分は大きめに切り分けて、ケーキを差し出す。しかし、変化なし。
 怒ってるの、という問いかけに、答える気配もない。
 ということは、怒っているのだ。
 アニーには、どうしてこれほどハンスが怒っているのかわからなかった。嫉妬というのなら嬉しくもあるが、怒ってほしいわけではない。それよりも、せっかく楽しみにしていた二人の時間を、楽しく過ごしたいという気持ちが大きかった。
「ねえ、機嫌直してよ。なんでもするからさ。ほらほら、あーんってしてあげようか?」
 自分の皿のケーキにフォークを突き刺し、ハンスに差し出す。冗談のつもりだったのだが、反応がないので、そのまま鼻先まで持ち上げた。
「食、べ、てっ」
 アニー史上最大級のかわいい声を出し、フォークをそのまま、ズイと突き出す。
「――っ!」
 ひどく単純な結果が、待っていた。 
 ハンスが慌てて対応しようとするが、避ける隙も、口を開ける余裕もなく──
「ありゃ」
「……アニー……」
 ハンスの口の周りは、クリームだらけになっていた。怒りのオーラが具現化して見えるのは気のせいだろうか。
 つぶれたケーキが突き刺さったままのフォークを、皿に戻す。おそるおそる、ハンスの目を見た。
 ハンスは黙っている。それがかえって恐ろしく、アニーは慌ててタオルを取ると、丁寧にハンスの顔を拭き始めた。
「ご、ごめん、ハンス。端正なお顔が……」
「わざとやっただろう」
「ちがうよー! いいかげんに、機嫌直そうよ!」
 クリームまみれにしておきながら機嫌を直せというのはさすがにないな、と自分でも思いながら、それでもアニーは懇願する。このままでは、険悪なムードのまま、あっという間に時間が過ぎていってしまう。

 懸命にタオルで拭っていると、唐突に、ハンスが腕をつかんだ。怒りを宿した表情のまま、力強く。
「なんでも、するんだな?」
 一瞬、アニーには、何のことかわからなかった。すぐに、機嫌を直してくれるなら何でもする、と言った自らの言葉を思い出す。
「うんうん、だから、機嫌直してよ」
「タオルを置いて」
「え? うん」
 淡々と指示を出され、言われるままにタオルを置く。頬や顎のクリームは拭ったが、まだ、肝心な所が残っている。
 まさか、と思った。
 それはそのまま顔に出て、アニーはぱっと赤くなる。ハンスは優しく優しく微笑んだ。
「取ってくれないか?」
 さすがに、その意味するところを理解し、アニーは言葉に詰まる。なんでもするなどと、なんて安易なことを言ってしまったのだろうと後悔するが、もう遅い。
 ハンスの唇には、あと少しのクリーム。
「…………一応、聞くけど、どこで、どうやって、取れば?」
「君の口で」
 どこで、しか説明されなかったが、それで充分だった。
 アニーは、動けなくなってしまう。そのまま固まって、頭は必死に働かせて、状況を整理した。
 しかし、どうやら、やらないわけにはいかないようだ。
「……じゃ、じゃあ、取るよ」
 意を決して、そう告げた。唇を近づける。ゆっくり、少しずつ。直前で目を閉じて、ほんの少し、柔らかいそれに、触れた。
 濡れた感触と、甘い香り。アニーはすぐに唇を離し、首を振る。
「は、ハンス! これ恥ずかしいよ! 無理!」
 アニーは耳まで真っ赤になっているのを自覚していた。燃えてしまいそうに、熱い。これほど頑張っているというのに、ハンスは涼しげな顔をしている。
「どうすればいいのっ」
 聞いても仕方ないと思いつつも、そう嘆く。あっという間に背中に手を回され、引き寄せられた。
「こうすればいい」
 取ってくれ、と言ったくせに、ハンスは自ら唇を押しつけた。甘い味が口の中に広がり、アニーはとっさに身じろぎするが、存外に強い力で抱かれ、動くことができない。
「……むぅ……!」
 クリームを取るどころではなかった。まるでアニーの中の何かを吸い取られてしまうかのような、長い長い、キス。
 やっと解放されて、息を吸い込む。文句の一つも言ってやろうと思うものの、そこまで意識が追いつかない。脳の芯が酸素不足だ。
 霞んでしまいそうな視界で、どうにかハンスの唇を確認する。もう、クリームは残っていない。
 ほっとしたのは、一瞬のことだった。
「じゃあ、あとは、何をしてもらおうかな」
「ま、まだあるの――っ?」
 悲鳴は虚しくアトリエ内に響いて――



 ――その後、なんでもする発言は一ヶ月という長期にわたって引きずられ、アトリエ周辺では疲れきったアニーが幾度も目撃されたのだという。

 
 
 
 



────────────
なんだか、普段使わない何かのパワーを使いました。
付き合っている設定の二人を書くのも楽しいかもしれない、と目覚め中です。
付き合うまでヘタレだった分、付き合ってしまえば、独占欲丸出しの押せ押せハンス、ちょっとS寄り、だと信じています。
さあ、もっと、かわいいアニーをいじめるんだ……!(Sは私か。


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  Name : 光太朗。
  性別女、またの名を光太朗子。
  『アニーのアトリエ』ハマり中。

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